SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 4, Aug. 1999.

7.Bi-2212 ROSAT wireの量産化に目処
−日立、日立電線、金材研が共同開発−


 日立製作所、日立電線、金材研の研究グループは、先に開催されたISS'99、日米高温超伝導ワークショップなどでBi-2212系の ROSAT wire (本誌Vol.7, No.4, 1998 通巻34号参照)の長尺化に目処がついたと発表した。線材の全長にわたってベストなショートサンプルと同等の素線性能を持つ長尺線材が得られており、すでに直径2 mm長さ400 m長で、総長10 kmを越える長尺線材の製作に成功しているようだ。フィラメント数は1320芯。3回対称に配置されたセグメントが55ユニット配置されている(図参照)。さらに、今年度中には単位長さで2 km長の線材が製作されるという情報もある。一口に2 km長というが、線径2 mmで2 km長という量は、現在市場に流通している幅3 mm厚さ0.2 mmのテープ線材に換算すると約10 kmの量に相当する大変な量である。典型的なIcは1000A@4.2Kで磁場異方性はないが、強磁場中のIcは、測定する温度にもよるが、たとえば4.2 K付近では20 Tで約1/3〜1/4程度にまで低下するとのことである。

 日立グループでは、この長尺線材を当面は金材研と共同で進めているNMR装置開発や大型の伝導冷却ソレノイドコイルの製作に利用するらしい。日立電線では、国内外の研究機関に対してサンプル出荷する用意があり、希望する方は連絡してほしいとのこと。問い合わせ先:jsato@arc.htachi-cable.co.jp佐藤淳一。ROSAT wireの長尺化技術の開発を進めている日立電線(株)佐藤淳一氏は「ようやく電線メーカーとして"線材"と呼んでも良い形状と長さをもつ酸化物超電導線ができた。現状でも使い方によっては性能とコストの点で金属系の線材と十分競争できる水準にある。Jcについても、さらなる向上の余地はあると思う」と語る。

 日立製作所で酸化物マグネットを開発している岡田道哉主任研究員によれば、「今回の線材はすばらしい。400 m長さでショートサンプルの性能とほとんど変わらない臨界電流を得ている。マグネットに巻いて特性を評価したが、従来のテープ線材よりもむしろ良い特性が得られているので驚いている。これによって、ようやく酸化物を使ったいろいろなアプリケーションを真剣に考えることが可能になった。今後は、この線材を使い、高温超電導体でしか実現できない新しい応用システムを開発して行きたい。真の意味での高温超電導の実用化研究がこれから始まると思う」と述べた。

 一方、金材研の北口仁主任研究官は「今回の研究成果のポイントはきわめて高品質な長尺線材を丸断面で実現できたことにある。現状の性能でも5 T以下の低磁界の応用であれば問題なく使える。しかし高磁界応用については更なる高Jc化が望ましい。高性能化はマグネット全体の低コスト化にもつながるはず。欲を言えばきりがないが、もう一歩Jcを高める努力を続けたい。現状の線材の断面組織を見るかぎり、今後の加工技術の改良でJc はもっと上がってもおかしくない。」と冷静に受け止める。

 この線材は、金材研強磁場ステーション(木吉司主任研究官、和田仁総合研究官)が進めている1GHz-NMRマグネットシステム(本誌Vol.8,No.2,1999通巻38号参照)用の最内層マグネットとして、有力な候補材料の一つであり、永久電流マグネットとしての発展も期待されているようだ。今後の展開に注目したい。

(Clark Kent)


図 新開発された1320芯マルチセグメント型ROSATワイヤーの断面。
1条長は400メートル