SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 6, Dec. 1999.


6.超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)による
電力系統の運転状態把握


 電力系統において、エネルギー貯蔵装置は電力の高効率運用には欠かせないものであり、今後益々その傾向が強くなっていくことが予想される。電力系統において現在実用化されているエネルギー貯蔵装置は揚水発電所である。また、新型を含む電池による貯蔵、フライホイール、水素、圧縮空気などの新しい貯蔵方式も提案され、実験されてきている。

 超電導の応用としての超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)は、超電導マグネットと半導体電力変換装置との組合せからなり、高効率、高速応性、電流源的特性、高インピーダンスなどの特徴を有する。揚水発電所に匹敵する大容量装置から変動負荷補償、電力系統の周波数制御、系統安定化装置、電圧安定化装置などの小容量にいたるまでの用途が提案されている。小型マグネットを用いた安定化制御の実験例もある。また、数MJ〜数十MJのSMESは、米国において電力品質向上のために実用化されている。

 一方、SMESが適用される電力系統は、益々大容量・複雑化が進むと共に、そのコストダウンが求められている。系統安定度等をオフラインで計算し、電力系統の安定運転を行っているのが現状である。この安定運転のためにオンラインによる把握ができれば,計算からのマージンを少なくすることができ,電力系統のシステム全体の有効利用を図ることができ、大容量・複雑な系統を経済的に安定に運用できる。

 以上の観点から、以下に述べるSMESを用いた電力系統の運転状態把握の試みが提案されている(東大 仁田旦三教授,京大 白井康之助教授)。このことをSMESの小型器から大型器への開発シナリオに加えることにより、開発が促進されると思われる。

 SMESによる電力系統運転状態把握の原理は、下図の概念図に示すようにSMESから正弦波状の電力を電力系統に出力し、その応答を解析することにより行われる。このためにSMESだけが有効であるのは、その高インピーダンス性のためSMESを接続しても系統の状態が変わらないこと、その高速応性から任意の電力パターンの出力が可能であること等である。

 小型超電導マグネットと回転機を含む模擬送電設備による実験、電力系統解析アナログシミュレータ(それに適応した模擬SMESを用いている)による実験が行われてきている。電力系統に危険な擾乱を与えないようにその固有周波数から外れた正弦波電力を出力し、その応答を最大エントロピー法(MEM)で解析することで系統の固有周波数を求める。また,SMESに系統安定化制御を加え、系統固有周波数の電力動揺を与え、その指令値と動揺振幅から系統の制動力を求める。このときにSMESの系統安定化の評価も同時に行える。系統計算における固有値の虚部は固有周波数に、実部は制動力に対応する。また、アナログシミュレータでの実験では,最近特に問題のある長距離くし形電力系統の固有ベクトルも得られている。つまり、固有値に対応する振動モードも把握できている。この方法は、測定に時間の精度が必要でなく、多地点による計測にも適している。

 最近の文献 Y.Shirai T.Nitta, et. al. "On-line Evaluation of Eigen-Vectors of Power Systems by Use of SMES", Proceedings of Power System Computing Conference, pp.971-976, 1999 (上乗長道)


図:SMESによる電力系統運転状態把握の概念図