SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 6, Dec. 1999.

4.固有ジョセフソン効果の新しい現象
Ic(B)の量子干渉パターンと100GHzマイクロ波効果


 銅酸化物層状超伝導体の小軸方向電流はジョセフソン電流と考えられている(固有ジョセフソン効果)。その特徴は、積層数Nの接合のI-V特性には電圧のブランチ構造が現れ、ブランチの数がNでブランチ間隔が大体エネルギーギャップ電圧となることであった。ところが臨界電流Icの印加磁界(B)依存性に表れるはずのIc(B)のきれいな量子干渉パターン(DCジョセフソン効果)は観測されていない。また、マイクロ波印加による定電圧ステップ(ACジョセフソン効果)も明瞭には観測されていない。

 最近、東北大学電気通信研究所のグループ(山下努教授ら)は図1の様な、はっきりしたIc(B)の量子干渉パターンを観測した。この接合は、1.5 mm×1.5 mm N=30であるが、注目すべきは中心にc (小)軸方向にφ=0.2 μmの穴がある場合のみ、明瞭なパターンが観測されていることである。ちょうど、d波の中心に穴を空けたような接合である。しかも、この接合の電流密度はAmbegaokar-Baratoff理論の値より1桁以上小さい。

c(小)軸方向に流れる固有ジョセフソン電流は従来のSISトンネル電流とはかなり異なることが示唆される。なお、Ic(B)の最初の極小はBmin・S・L=Φ0を満足する(S=層間隔=15Å, Lは接合幅=1.5 μm)。従って、Bminでは各層に1.5 μmの長さの磁束量子が侵入している。

 1〜10 μm2の固有ジョセフソン接合に1GHz〜10GHz程の交流電磁波を印加すると図2(a)のような一見、Shapiro-stepの様な数mV〜数10 mVのZero- crossing電圧ステップが観測される。この電圧幅と印加周波数及び積層数Nの間には単純な関係が見出せない。また、この様な接合に例えばfLO=15GHz, fs=100GHzを印加して高調波ミキシングを行いfIF=450 MHzの出力を観測すると図2(b)の様になる。電圧ステップに似た周期性が見られる。この周期も単純な交流ジョセフソン効果では説明できないが、従来の接合と同様強い非線形特性を示す。ここで注目すべき点は、図2(b)のA点において関与する周波数は約5 THzとなり電力は概算すると接合当たり300 mWの大電力となることである。

 従来の考え方でほぼ説明できるのは、結晶中でのフラックス・フローと電磁波の速度整合現象である。図3(a)はLSCO単結晶の固有ジョセフソン接合の磁界BによるI-V特性変化である。 B=1Tesla付近で電圧Vm?30mVの急峻なアップターンが見られる。図3(b)はB対Vmを示す。この図より、磁束量子列の運動と面間を伝播する横波電磁波の速度整合が起きていることが示され、その周波数はfm?数100GHz程の高周波で、磁束量子の最高速度vm?6×104 m/sとなる。なお、BSCCO(2212)の場合も同様な現象が観測されている。この場合は磁界1Tesla中では、vm?106 m/sと得られており、この時の交流周波数は図1より得られる磁束両量子サイズ(~1.5 μm)とvmよりfm.2THzとなる。

 これまで判った固有ジョセフソン接合の特徴は
@磁界1テスラの中で発生する約1 mm×15 Å程の小さな磁束量子
A磁界量子列の運動による高い周波数(100 GHz〜数THz)の電磁波励起
B強い非線形性による周波数THz、電力数100mW接合の高次ミキシング効果
 これらの特徴を用いると、"電力密度が大きく、かつTHz帯で動作するマイクロ電子デバイス"の実現が期待される。

 なお、接合のサイズをサブミクロンにすると単電子対トンネル効果が実現できることは、1998年8月(Vol.7,No.4)通巻34号で紹介した。

(三尺玉)


図1 BSCCO(2212)接合のIc(B)/Ic(0)量子干渉パターン。
サイズ1.5mm×1.5mm2でφ=0.2mmの穴を持つ接合。
Ic (0) =0.3 MA


図2(a) 10×10μm2のBSCCO(2212)接合のマイクロ派印加時I-V特性


(b) BSCCO(2212)接合の高次ハーモニックミキシング特性とI-V特性


図3(右) LSCO固有ジョセフソン接合の磁場下の電流-電圧特性
(左) 最大磁束フロー電圧とフロー速度の磁場依存性