SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 6, Dec. 1999.

3.日米代表による次世代線材開発状況の最新報告
                  ISS`99より


 去る10月17日〜19日、盛岡メトロポリタンホテルにおいて第12回国際超伝導シンポジウムISS`99が開催され、日米代表により次世代線材開発の報告がなされ、大きな反響を呼んだ。

 まず始めに、オークリッジ国立研究所(ORNL)のR.A..Hawsey博士はYBCO線材に関する米国の開発状況について発表を行った。米国内では、ロスアラモス国立研究所(LANL)を中心とするグループがIBAD(イオンビームアシスト蒸着)法により線材を開発中であり、IBAD/YSZ基板上にパルスレーザー蒸着法(PLD)でYBCO膜を形成した1m長×1cm幅のテープにおいてIc=122 A (77 K & SF=自己磁界)を達成した。1cmごとのIc値のばらつきも±20%以内に収まる良好な特性であった。ORNLを中心とするもう一方のグループは、RABiTS(ローリングアシスト二軸配向基板)法により、当線材の開発を行っており、最近はNi-13%Crの非磁性配向基板を用いて短尺試料ではあるが、1.4×106 A/cm2/77 K&SFを達成している。

 ORNLは世界初のBaF2プロセス、いわゆるex-situ法を開発した。この方法は、常温でRABiTSまたはIBAD基板上にY、BaF2およびCuを蒸着した後、高温下、水蒸気/O2雰囲気中で焼鈍して超伝導層を形成するもので、簡便・安価な新しい超伝導成膜法である。このex-situ法により、短尺最高Jc値として2.3×106 A/cm2(RABiTS)および2.5×106 A/cm2(IBAD)が得られていると報告し、注目を浴びた。

 引き続いて,米国の次世代線材開発体制について紹介があった。表1に示されるごとく、LANLとORNLの2国立研究所を中核として、6企業と3大学が当線材開発プロジェクトに参加しており、電子ビーム法、PLD法、MOCVD法など5プロセス技術の開発を行っている。3M社はLANL、ORNL、South Wire社およびスタンフォード大学と提携しながら、長尺線材作製技術の開発に取り組み、100m級の配向基板作製に成功するなど先行している。OST社はPLD法によってRABiTS配向基板の製作に成功しており、開放型CVD法を開発中のMCT社と提携して、長尺化を目指している。ASC社は、TFA前駆体を用いた全溶液ex-situ法を開発して、0.8×106 A/cm2のJc値を得ている。また、IGC社はIBAD基板上にMOCVD法により、YBCOを成膜した短尺試料で2×106A/cm2を超えるJc値を達成している。このように線材開発は順調に進んでいることから、2000年中に5〜10mの線材が企業により製作され、2002年末までに10〜100 mの線材がケーブルおよびマグネット応用に供せられるだろう、と強気の見通しを述べて発表を締めくくった。

 次いで、日本を代表して超電導工学研究所(SRL)の塩原融部長より次世代線材開発プロジェクトについて報告があり、当開発計画の全貌が明らかになった。本誌既報(Vol.8,No.4)のように、本年度より関連企業7社の参加を得て、開発体制を強化し、研究開発のいっそうの進展を図っている。本プロジェクトの目的は、2002年度までの4年間で100〜1000m級長尺線材作製プロセスを開発するとともに、1〜100m級線材を作製する革新的基盤技術を開発することであり、3グループの開発目標は表2のとおりである。各グループの希土類123系線材開発計画を以下のように、詳細に紹介した。

 (1)基板配向制御型線材の開発(古河電工、東芝、SRL):基板配向制御型線材は、下地となる金属基板を結晶配向化させて、超電導層を3次元的に配向させる線材である。基板の配向化技術としては、圧延と熱処理を用いた立方体集合組織作製の手法が適用される。 超電導層との反応が少ない銀基板の配向化技術は、日本(東芝・日立)で最初に開発されたが、銀基板自体は機械的強度が低いため、合金化、複合化による強度化技術の開発が必須である。米国では、Ni基板上にYSZ,CeO2等の中間層を介してY系超電導層を積層させ、高Jcを達成している。最近SRL/古河電工が共同開発した新SOE法(表面酸化エピタキシー)により、面内配向したNiO酸化膜中間層が得られるようになった。本プロジェクトにおいては、これら銀系金属基材を用いた反応抑制基板配向制御型線材およびNi,Ni基合金SOEを用いた高強度基板配向制御型線材の開発を進める。

 (2)中間層配向制御型線材の開発(住友電工・東京電力、フジクラ・中部電力):中間層配向制御型線材は無配向高強度金属基材上に中間層を3次元的に配向させ、その上に超電導層を配向成膜させて得る線材である。この中間層配向化技術としてはフジクラが発明したIBAD法と住友電工が開発してきたISD(基板傾斜成膜)法などがある。IBAD法を援用した線材は超電導層の配向性に優れ、基板傾斜法を援用した線材は高速成膜に優れる等各々の特徴を持っている。   この分野では日本勢が先鞭をつけた関係で1〜3 m級線材は日本がリードしてきたが、米国勢は最 近の成果報告でJc〜106 /Acm2の達成を発表し、急追している。当グループは、従来の実績を踏まえて大型設備を導入し、100〜1000 m級の線材を先行的に開発する研究に重点をおき、早期に機器応用の観点からの線材特性評価の知見をフィードバックさせつつ、長尺線材プロセス基盤技術の確立を目指す計画である。

 (3) 超伝導層高速合成型線材の開発(昭和電線、SRL その他):超伝導層の成膜は一般にPLD等の気相成長法を用いていることから、成膜速度が遅く、厚膜化に伴い、結晶性が劣化するため、超伝導層厚が薄く限定され、総合臨界電流密度Jeが小さくなる欠点があった。この対策としては、高強度化により、基板厚さを薄くするとともに、高Jcを維持しながら厚い超伝導層を高速で合成することが有効である。本プロジェクトでは、気相法以外の固相法や液相法、これらと気相法との組み合わせ等超伝導層の高速合成法を開発する。すなわち、固相法としてゾルゲル法や有機酸塩熱分解法であるMOD法等の塗布法を援用する。液相法としては、SRLが開発したLPE法(熱平衡に近い状態での結晶成長が特徴)を適用し、超伝導層厚10 mm、成膜速度10 mm /h以上の長尺プロセス開発を目指す計画である。

 以上、日米両代表による次世代線材開発状況報告を紹介したが、両報告とも実施担当責任者の気迫がこもった意欲的な内容であった。期せずして、最終納期と目標線材長は同一水準に揃っており、今後両者が切磋琢磨して、開発目標を達成するよう期待したい。米国側の資金的支援状況についていえば、1999・2000年は1600万ドル/年、2001・2002年は2400万ドル/年に増額し、その半分をDOEが負担するという強力な政府援助が注目されるところである。わが国においても米国に負けない政府の継続的資金援助を要望したい。

(こゆるぎ)