同じプロジェクトにおいて、TMLと(株)日立製作所、日立電線(株)は、Bi-2212多芯丸線材(ROSAT線材)を使用したソレノイドコイルを共同で開発した。図2左側のコイルの巻線内径、外径はそれぞれ75mm、132 mmで、高さは100 mmの実用規模サイズである。使用した線材長も254 mとなっている。本コイルは単独で液体ヘリウム中において2.8Tの中心磁場を発生した。これはBi系酸化物線材を密巻きにしたソレノイドコイルでは世界最高の値である。本コイルをNbTiの永久電流スイッチを組み合わせた回路(接続は半田)は、50時間後でも1.39 Tの磁場を発生していた(開始時は2.43 T)。さらに同種のコイルを軸方向に6個重ねて、1 GHz級NMRマグネットの内層コイルと同じサイズ(巻線高さ 600 mm)としたコイル(図2右側)も一度に熱処理することによって作製した。これは4.2 Kで2.0 Tの中心磁場を発生した。密巻きはNMRマグネットで一般に使用されている巻線方法であり、酸化物系マグネットで一般に用いられているパンケーキ巻線に比べて、高磁場部で接続しなくて良い、磁場の均一度について実績があるという利点がある。この開発を担当した(株)日立製作所の岡田道哉主任研究員はこの度の成果について、「今回の成果で酸化物も、ようやくマグネットらしい形になった。まだ長いトンネルの出口が見えてきたところだが、この先の見通しは明るい」と語った。
TMLは1995年度から1GHz級NMRマグネットの開発を進めている。このマグネットは、NMR測定に必要な磁場の均一度と安定度の下に、23.5 Tの磁場を発生することを目標としている。Bi系酸化物超伝導コイルは、巻線内径75 mm、巻線外径130 mm、巻線高さ600 mmで、2.4 Tを発生する設計となっている(金属系により21.1 T)。この度の一連の成果について、マグネットの設計を担当した強磁場ステーションの木吉司ユニットリーダーは、「NMRマグネットで実績のあるソレノイドコイルの製作が可能となり、磁場の均一度に関しては達成できる見通しを得た。磁場の安定度を満足する永久電流モード運転のためには必須と考えられていたNbTiとの超伝導接続技術が開発されたことで、永久電流モード運転の道具立てもそろったことになる。線材のn値の向上が実用的な永久電流モードの運転には不可欠であるが、これも徐々に上昇している」とコメントした。
(ピカチュウのパパ)
図1 Bi-2212とNbTi線材を超伝導接続した試料の臨界電流の磁場依存性。
(●、■はそれぞれBi-2212丸線および平角線での結果)
図2 製作したBi-2212ソレノイドコイル