SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 6, Dec. 1999.

14.超伝導シールドおよびイメージ表面を
備えた新MEGシステム公表
―LANL―


 このほど、ロスアラモス国立研究所(LANL)の研究者がコスト低減と患者診断数を改善するための新概念を盛り込んだ新しい全頭脳磁図(MEG)検出システムを公開した。LANLのシステムは50個のSQUIDセンサーを内蔵し(最終的には150個のSQUIDセンサーを収納予定)、独特の磁気シールドとイメージ機構を含んでいる。システム画像化装置は、脳の電気的活動をコンピューターにより脳磁図に再構成して、3次元のMRI画像上に投影させて表示するものである。LANLのバイオ物理グループで組織されたチーム(リーダー:Bob Kraus MEG主席研究者)は、アルバカーキ市のVA医学センター付属神経画像センター、ニューメキシコ大学およびサンディア国立研究所と提携して、MEGシステムを利用できる患者数を4倍に増加させ、かつMEG装置および計算方法を改良することによりシステム・コストの低減に注力している。

 LANLにより開発されたアルゴリズムは、いまや世界中の商用および開発中のMEGシステムに組み込まれており、今回の開発は臨床的MEGデータのさらに高度の解析を可能にするものといえる。このアルゴリズム開発の第一領域は、150個の検出コイルからのデータ取り込みと測定された磁場に対応する電流源の位置同定とからなる逆問題である。開発の他の領域は,これら同定された電流源データをMRI画像と組み合わせて、外科医に対する案内地図を供給することに焦点を合わせている。ごく最近、Kraus氏のチームは機能性MRI(fMRI)を使用して、秒単位の血流を測定し、当逆問題の解決の助けにしている。この研究は、脳の活動領域では血流が増加するという理論に基づいている。Kraus氏はMEG検査の間に取得したfMRIデータを逆問題方程式の初期値に組み込みMEG-MRIを対応させることによって、問題の解法を以前よりさらに容易にした。「MEG情報は、fMRIによって観測された血流パターンと非常によく一致するものとなろう」と同氏は語っている。

 ハードウェア面では、Kraus氏のグループは磁気シールドおよび一種の鏡面として働く超伝導イメージ表面を開発した。このアイデアは、Bill Overtonにより最初に概念化されたものである。ヘルメット形の部品は、2つの目的を持つ4 Kに冷却された鉛超伝導体より構成される。第一の目的として、当超伝導体はSQUIDセンサーに干渉しないように外部磁場を遮蔽する。このアプローチにより、概算30〜50万ドルという高価な磁気シールドを施された部屋を不要とすることができる。シールド効果因子は、ヘルメット端部付近の磁力線が少し曲がる所で約10であり、ヘルメットの平坦部の内部では数100に達している。磁気シールドの観点からは、ヘルメット側面の各チャンネルとの磁気的結合における端部効果が最大の問題点となる。経験を積んだ現場作業員は、これらのチャンネルが臨床的に最も肝心であるということを経験から知っている。しかし、彼らは設計が原理的に多くの可能性をもつことを承認している。

 イメージ表面の第二の目的は、軸方向グラジオメーター(磁場勾配計)の第2検出コイルのように働く誘起電流パターンを提供することである。商用MEGシステムでは、軸型あるいは平面型グラジオメーターが用いられている。これらは各々反対方向に巻かれた2つの検出コイルを内蔵しているので、背景のノイズは各コイルごとにほとんど変わらず、お互いに相殺する。しかしながら所望の電流源に近いため、その電流源による磁場は2つのコイル間でより大きく変化し、エレクトロニクス装置がこの差異を検出するのである。LANLが特許権を所有する超伝導イメージ表面は、マイスナー効果を利用しており、脳信号とその鏡像の信号をSQUIDに供給して、軸型グラジオメーターを模倣する働きをするものである。このアプローチの利点は、グラジオメーターの代わりに磁束計をヘルメットに組み込むことができることである。しかし、長期的に見れば印画印刷で磁束計とグラジオメーターを製造するコストは同等になるかも知れない。

 将来構想は、光印画技術を利用してヘルメットの内部に検出ループを印刻し、ヘルメットの大量製造を可能にし、設置するセンサー数の増加を目指すことである。センサー数を増すことにより、測定時間が短縮し、得られる情報量が増加する。最近のシステムで使われているSQUIDは、CRADA助成制度のもと、コンダクタス社とLANLにより開発され、Robin Cantor社によって製造されている印画印刷型の装置である。超伝導イメージ表面の製造コスト低減を可能にしたのは、LANLがデュポン社と共同開発した高強度で、耐久性に優れた低温材料の組み込みがある。同材料は高価なセラミクス部品の代わりに、磁束計の支持材として用いられる。LANLは、この材料の共同特許権を保持している。

 LANLは、新しい全頭型MEGの予備的試験を完了している。この装置はまもなく最初の対人実験を行うみこみである。これらの試験と、残り100個のSQUIDを設置後、新システムは臨床試験のため、アルバカーキVAセンターに設置される。LANLも今回初めてMEG測定結果をMRI画像と融合させるために使われる改良アルゴリズムをVAセンターの研究者に供給すると思われる。クラウスたちは、MEG,SQUIDセンサーおよび超伝導イメージ表面の将来応用について研究を続けている。この中には胸部画像、脳および心臓の重大な異常の早期検出装置、非破壊検査、飛行機および核兵器部品の試験などが含まれているという。

(相模)