SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 6, Dec. 1999.

12.高温超電導ジョセフソン接合作製技術にさらなる進展
―超電導工学研、NEC、日立、東芝―


 超電導工学研、NEC、日立、東芝の4者は、特性のばらつきの小さな高温超電導ジョセフソン接合の作製技術を確立し、ディジタル集積回路実現に見通しを得たと11月11日、報道発表した。

 超電導工学研は、工技院のニューサンシャイン計画の一環としてNEDOより委託を受け、「超電導応用基盤技術開発」プロジェクトを平成10年度から実施しており、その一部として単一磁束量子 (SFQ) 素子を中心とする高温超電導超高速素子の開発を行っている。この素子開発には、日立、東芝、NEC、富士通、三菱電機、三洋電機、デュポンの7社が再委託企業として参加しており、高性能で特性ばらつきの小さなジョセフソン接合の作製技術の確立とSFQ集積回路の動作実証を最大の課題としている。

 このプロジェクトの中では、平成10年度にNEC基礎研グループ(主担当者は、佐藤哲朗氏)が、超電導層表面をイオン照射により改質し形成した絶縁層(界面改質バリア)をもつYBCOランプエッジ接合のIcのばらつきが、100接合アレーで1σ = 8 % という小さな値になることを発見した(本誌 Vol. 7, 号外 1998.10)。界面改質バリアをもつランプエッジ接合に関してはその後、日立基礎研のグループ(主担当は五月女悦久氏)が、NECと異なる基板材料(SrTiO3)と層間絶縁層材料(CeO2、NECは基板、層間絶縁層ともLSAT)を用いて、200接合での1σ= 10 %を達成し(本誌 Vol. 8, No.3)、さらにNEC基礎研グループは超電導工学研グループと共同で、界面改質バリア層の構造、組成、その形成機構を明らかにする(TEM観察の担当は超電導工学研の文建国氏)と共に、1000接合アレーでのばらつき1σ=10 %を達成している(本誌 Vol. 8, No. 4)。

 今回の報道発表では、これら最近の成果に加え、複数の研究機関でほぼ同等の特性をもつ接合が作製され、重要な課題である特性の再現性に関しての目途が得られたことが強調された。図は、各研究機関で作られた界面改質バリアをもつYBCOランプエッジ接合の IcRn 積をJcに対してプロットしたものである。Jcが低い接合では、粒界接合をはじめとして多くの高温超電導接合で従来報告されてきたように、IcRn 積はJcの0.5乗に比例する関係を示すが、Jcの上昇と共にその依存性は弱くなり、高Jc側では飽和する傾向が見られる。

 NECと日立の接合はパルスレーザー堆積 (PLD) 法により、東芝グループ(主担当は井上眞司氏)の接合はoff-axisスパッタ法により作製され、また使用している基板、層間絶縁層材料やイオン照射の条件が少し異なるが、すべてのデータはほぼ同じ相関曲線上に乗っていると見ることができる。超電導工学研のグループ(主担当は槇田毅彦氏)がoff-axisスパッタ法により作製した接合も、東芝グループのデータに近い値を示すとのことである。この結果は、作製方法の若干の違いによらず、同じ性質をもつバリア層が再現性よく作られていることを示唆している。

 作製方法の違いは、現段階ではJcの制御性に現れている。NECと日立の接合では、上部YBCO薄膜の堆積時の基板温度を40-70 ℃変化させることによりJcを3桁変えられるのに対し、東芝の接合では基板温度による変化がより小さい(東芝グループ代表の吉田二朗氏談)。界面改質バリアは、イオン照射により薄膜表面に生じたY-rich、 Cu-poorのアモルファス層が、上部YBCO成膜過程で結晶化した立方晶の絶縁層(前述のNECと超電導工学研の報告)と考えられているが、成膜時の酸素雰囲気や下地の超電導膜の膜質によりアモルファス層の結晶化過程やその安定性にわずかに違いが出ているようである。

 今回の発表を行った超電導工学研のデバイス研究部門を総括する田辺圭一氏は、「これまでの結果から、界面改質バリア接合は少なくともNbのプラズマ酸化バリア接合に匹敵する筋のよい技術であることがわかった。今後は、基板温度をより均一かつ精密に制御できるような成膜装置の導入や、薄膜品質の一層の向上により、現在12個程度の接合で得られている1σ= 5 %の特性ばらつきを10,000個の接合で14年度までに達成することは可能であろう。プロジェクトでは、最終的に1,000個以上の高温超電導接合を集積したSFQ回路の試作を目標としていく。」と述べている。

(JJ一筋)


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