SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 6, Dec. 1999.

11. Bi系超伝導体で
ジョセフソンプラズマ反射率エッジの観測に初めて成功
−東大工−


 東京大学工学部岸尾光二研究室の博士課程大学院生本橋輝樹氏らは、Pbを大量に添加したBi2212単結晶の超伝導状態におけるc軸偏光遠赤外線反射スペクトル測定を行い、ジョセフソンプラズマエッジを観測することに成功した。これはBi系超伝導体における光学反射率測定でジョセフソンプラズマを確認した初めての研究例であり、Pbを大量に添加したBi2212が超伝導状態で低い異方性を有することを示す有力な実験的証拠である。この成果は日本物理学会1999年秋の分科会(岩手大学)及びISS'99(Morioka, Japan)で発表され、"Physical Review B"誌へ投稿された。

 本誌でも既に報告した通り(SUPERCOM, Vol. 6, No.2, (1997))、Bi2212にPbを高濃度添加すると臨界電流特性が大幅に向上することが知られている。この優れた特性をもたらす要因の一つとして、Pb添加による電磁気的異方性の低下が提唱されている。本橋氏らは既にBi2212の常伝導状態における電気抵抗率の異方性rc / rabがPb添加とともに系統的に減少し、キャリアオーバードープのPb高濃度添加Bi2212ではrc / rabがLSCOやYBCOのアンダードープ試料に匹敵する1200程度にまで低下していることを発表している(Motohashi et al., PRB 59, 14080 (1999))。しかし、超伝導状態においてもこのような低い異方性が保持されているかどうかは明らかでなかった。

 ジョセフソンプラズマは銅酸化物高温超伝導体に特徴的な励起であり、その周波数wpはc軸方向の磁場侵入長lcに反比例する。ab面内の磁場侵入長labはキャリア濃度等に比較的鈍感であるため、wpは超伝導状態の異方性lc / lab (有効質量モデルが成立する系ではlc / lab〜(rc / rab)1/2である)にほぼ反比例すると考えてよい。LSCOやアンダードープYBCOのwp は遠赤外領域にあり、ジョセフソンプラズマ(超流体プラズマ)に起因するエッジ構造が光学反射率測定で観測される。しかし、lc / labが70 ~ 90を超える系ではwpが赤外反射率測定の検出限界 ~ 30 cm-1を下回ってしまう。Bi系超伝導体のlc / labは通常100のオーダーであり、これまでBi系のジョセフソンプラズマは磁場中やTc近傍でwpをマイクロ波領域に下げることによってのみ観測されてきた。今回の本橋氏らの結果はPbを大量にドープしたBi系ではwpが遠赤外領域にまで上昇していること、すなわち超伝導状態での異方性も常伝導状態同様、劇的に低下していることを示すものである。

 図は様々な温度で得られたBi(Pb)2212単結晶(Tc = 65 K, オーバードープ)のc軸反射率スペクトルである。スペクトルがTc以下で劇的に変化し、検出限界(30 cm-1)より十分高い40 cm-1付近に鋭いエッジが観測されていることがわかる。LSCOやYBCOにおけるスペクトルとの類似性より、これはジョセフソンプラズマエッジの出現を示していると考えられる。スペクトルの解析から見積もられるlcは12.6 mmであり、最適ドープのPb無添加Bi2212の値: lc ~ 100 mmと比べると1桁近くも小さいという。

 実験を行った本橋氏は「Bi2212のジョセフソンプラズマと言えばマイクロ波(10 cm-1以下)を用いて研究するのがこれまでの常識であったが、これをLSCOやYBCO同様赤外反射率測定で確認できたことは非常にインパクトがあると思う。また、元素置換という化学的手法によって物質の超伝導面間結合が制御可能であることを実験的に実証したことは、今後の実用材料開発の際に有力な指針となるであろう」と述べている。

(疾風)


図 様々な温度におけるBi(Pb)2212のc軸反射率スペクトル