SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 6, Dec. 1999.

10.銀を使わない低コストな
Ni基板Bi系高温超電導線を開発
−(株)東芝−


 銀を使わないBi系超電導線が開発された。銀の代わりにNiテープを基板に使うもので、価格は銀の1/20。各種機器のフィージビリティスタディが進む中、将来、線材の高価格が製品化の障害になりそうであるが、今回の開発はその問題の解決に大きく前進するものである。

 平成11年10月13−15日に、第9回日米高温超電導ワークショップが日米の高温超電導研究者を集めて、山梨県の八ヶ岳ロイヤルホテルで行われたが、その中で、(株)東芝からの高温超電導線の発表が聴衆の興味を引いた。内容は、銀を使わないBi系高温超電導線である。NiO/Ni基板上にBi2212を塗布法で作製したもの(図1)で、従来の銀を用いた線に比べ安価なNiを用いるので材料費は1/20になる(銀は2万円/kg、Niは1000円/kg)という。Houston大のMengらはCr/Ni基体上でのBi2212テープの作製を報告しているが、Ag(Pd)やCrのスパッタによるNi基板への蒸着が必要である。一方、今回のNiO/Ni基板は単純な空気中での熱酸化により簡単に作製できる。現在、臨界電流Icと臨界電流密度Jcは、180 A、12万 A/cm2(4.2 K、10 T)を得ている(図2)。これは、従来商用線材のNbTi、Nb3Snの特性に遜色ないものである。Niテープ表面に作製したNiOは、1)非常に緻密で表面も滑らか、2)Niテープ酸化処理中でのNi→NiO反応がすぐに飽和してしまう。よって、後工程のBi系超電導体作製熱処理中に、NiテープからNiが拡散したり、逆に酸化物超電導体から酸素が取られることがない。このため、高特性が得られるとのこと。

 周知のように、Bi系超電導線は、米国ASC社、欧州のNST社、日本の各社で、現在、1 kmほどの長尺ものが定常的に作られており、総量は各社年間数十 kmから百 kmにもなっているという。これにともない、米国SPIなどの開発プログラムなどで変圧器、ケーブル、MRIなど種々の機器開発が世界各国で行われている。一方、機器開発が進むに連れて、最大の問題点が"価格"であることが明白になってきた。本誌でも以前報告(Vo.7 No.1、Vol.6 No.3及びNo.6)したが、DOEの試算によれば、電力機器で製品として成り立つ線材の値段は$10/kAmである。他方、線材は安いもので現在$300/kAm(ICMC'99、ASC社Dr.Masurらの論文)である。また、各種機器では、線材は10-30km程度は必要である。これに線材の値段をかけると、線材値段だけで、商用機器として成り立たないものになってしまう。すなわち、コストの面を見とおしをつけない限り、開発の意味が無かった。 今回の低コスト化線材の開発は、こうした機器開発に朗報となるものである。同時に、Niは銀に比べて抵抗値も大きいので、ロス低z減が必須とされている高温超電導の交流応用の面でも将来性がある。

 本線材を開発した(株)東芝 電力・産業システム技術開発センターの山田穣主査は、「これまで、高温超電導体は高温で使わなくてはならないかのような既成概念があったが、今回の技術で、コストがNbTi、Nb3Snなみになる可能性も高く、これで、低温超電導線のマーケットの一部が置き代わってしまう可能性も高いのではないか。」とコメントしている。

 これまで、(株)東芝は、高温超電導線材の開発において、銀シース法 (登録特許 第2685751号)、Pb添加Bi系超電導体 (登録特許 第2804039号)、厚さ100mm以下のフィラメント構造を持つ線材 (登録特許 第653462号)などの有用な技術を開発してきているが、今回の技術は、さらに直近で商品化を迫られている時代の要請と言え、その中で、大きな技術になる可能性を秘めている。なお、本内容に関しては、平成11年11月10-12日に東京都立大学で行われた1999年秋季低温工学・超電導学会でも、同様なSUSシースの低コストBi2223線材とともに講演発表されている。

(HTSJapan.com ハイティシ ジャパン ドットコム)


図1 開発されたNiO/Ni基板Bi2212線材の断面図


図2 NiO/Ni基板Bi2212線材の臨界電流(Ic)−磁場特性