SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 5, Nov. 1999.

8.書評「低温工学概論−超伝導技術を支えるもの−」


荻原宏康編著
発行東京電機大学出版局
ISBN 4−501−61730−6
4500円(本体価格)
A5判 308頁

 本書は、応用超伝導および極低温に造詣の深い荻原宏康教授編纂になる大学院生向け「低温工学」の教科書である。大学院生向け教科書というと、つい堅苦しく最先端の成果を羅列した真面目一方の教科書を思い浮かべるかも知れない。内容はきわめて高度なものでありながら、記述はいたって平易でわかりやすい。最初の低温工学の歴史紹介からして、読者を低温工学へと誘なうロマンあふれる物語となっている。

 本書の特徴は、低温工学の物理的ならびに工学的基礎を大事にしていることで、本書の半分以上をそれに割いている。それと同時に実際面についても多くのデータを盛り込み、詳しく紹介している。

 7人の執筆陣には、各分野の権威あるいは第一人者を配しており、わが国における低温工学界の総力を結集したものといえよう。大学院生、研究者はもちろんのこと、低温工学を基本から独習したい人にも、演習問題が随所に用意されているなど懇切・丁寧な参考書となろう。また、本書の最終目的が直冷式超伝導マグネットの設計におかれていることから、超伝導マグネット技術者にとっても大変役に立つ本であろう。本書を強く推薦する所以である。

 本書は内容的にはI. 低温工学の歴史と物理的背景、II.低温工学の熱工学としての基礎、III.低温工学の実際、の3部から構成されている。I部第1章では、冷凍技術の歴史に関して、歴史上の多くの業績とその物理的な基礎について述べ、楽しい「温度軸に見る自然の豊かさ」の話も収録している。第2章では、低温工学の物理的基礎として、液体4Heと超流動、液体3Heおよび3He/4He希釈冷凍機など密度の濃い講義をしている。II部第3章では、低温工学の熱工学的基礎として低温生成の熱力学の基本を詳しく述べている。各種の線図・表も豊富に取り揃えている。第4章では、冷凍技術に係って、エクセルギー解析と蓄冷式およびパルス管冷凍機について優れた講義をしており、冷凍技術者の必読部分であろう。

 III部は低温工学の実際編であり、第5章では低温工学の作業物質となっている冷媒について講義している。冷媒の取り扱い方と冷媒のデータが詳しくマニュアル的利用も可能である。第6章では蓄冷材とその使い方およびGM冷凍機について述べており、未来の冷凍機として磁気冷凍機の解説も行っている。最後の第7章では、低温維持のための技術として、超伝導マグネットを収納する断熱容器、その設計と使用上の注意点について講義しており、仕上げとして直冷式超伝導マグネットの総合設計演習を展開している。

                                  

(高麗山)