SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 5, Nov. 1999.

5.世界最強磁場の記録更新
_金材研強磁場ステーション_


 去る9月28日、科学技術庁金属材料技術研究所内強磁場ステーション(TML)のハイブリッドマグネット(愛称 "gama" )で37.3 Tの磁場発生に成功した。これは、1995年、やはり同研究所が記録した世界最高磁場36 Tを抜き、定常磁場での世界記録である。酸化物高温超伝導材料の発見を機に1988年にマルチコアプロジェクトが開始されたが、その中で、TMLは強磁場研究の中核センターとして位置し、各種マグネットを設置している。とりわけハイブリッドマグネットは世界最強の磁場を発生できる設備として注目を集めてきた。またTMLは、今年の春にBi系酸化物高温超伝導材料を利用した超伝導マグネットでも23.4 Tの磁場発生に成功し、超伝導マグネットの発生磁場の世界記録を達成しており、強磁場マグネットの開発で常に世界をリードしている(本誌前号Vol.8, No.4, p5)。

 このハイブリッドマグネットの外側に配された超伝導マグネットは、室温有効内径40 cmの空間に15 Tの磁場を発生する能力を有し、内側に水冷銅マグネットを組み込むことができる。今回、和田仁、木吉司、佐藤明男、浅野稔久、松本真治、小菅通雄、湯山道也、永井秀雄の各氏らのグループと、東芝(星野昌幸氏ら)との共同研究により開発されたビッター型マグネットは、内層、中層、外層と三つのブロックからなり、最内層と中層には、同研究所で開発された高強度の銅銀合金が使われている。

 TMLは、共同利用施設として昨年度から国内外の研究者に開放されているが、水冷銅マグネットは励磁時にかかる強い応力によって消耗するため、これまで一般的に提供する磁場は30 Tを限度としていた。新開発された内径 32 mm のビッター型マグネットは、今回の最高磁場を発生した後でもマグネットに劣化が見られず、また、磁場発生中の冷却水の温度も従来のものより低く抑えられており、設計どおりの十分な強度と冷却性能を持っていることが確認された。ビッター型マグネットでは補修等が比較的容易であることから、今TMLのハイブリッドマグネットgama後は一般研究者への磁場提供に際しても、35 T程度までは安定して供給できるようになると考えられる。

 今回の新マグネットの開発により、先端超伝導材料の高磁場特性が具体的により精度よく計測できることになり、超伝導の研究に与えるインパクトは大きい。和田仁総合研究官は、「新磁気科学に代表されるように、強磁場の応用はますます多様、広範なものとなっている。磁場の利用限界が広がったことは利用者ニーズへの対応能力幅が増えたことになり、TMLとして特に嬉しい。今後は、利用者の多様なニーズに、より柔軟に対応できるよう、磁場設計の技術を向上させたい」とコメントしている。

(Break Through)