SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 5, Nov. 1999.

4.フライホイール開発プロジェクトについて契約締結
_ボーイング社・米国エネルギー省_


 この度、ボーイング社ファントム工場と米国エネルギー省(DOE)が高温超伝導ベアリングを用いたフライホイール型エネルギー貯蔵システムの開発プロジェクトに関して契約締結したことが明らかになった。他の4つの私企業(IGC社、Praxair Specialty Ceramics,Mesoscopic Devices,Ashman Technologies)を包含する750万ドルの本プロジェクトに対して、DOEは370万ドルを出資する予定である。

 アルゴンヌ国立研究所(ANL)と南カリフォルニア・エディソン社も、このプロジェクトに参加する予定。ボーイング社は、3フェーズの期間において、10kWhのフライホイール・システムを開発する計画である。当技術は、最終的には、電力品質、負荷平準化および衛星用エネルギー貯蔵のために新しい解決策を提供することを目標としている。

 3年間の3フェーズ計画において、ファントム工場は10kWhのフライホイール・システムの開発を担当する。当システムは、パルス管冷凍機で冷却されるもので、重量は約300ポンド、毎分24,000回転で動作する予定である。フェーズIでは、当チームは各部品の大部分を製作し、動作速度でテストを行う。フェーズIIではファントム工場で10kWhシステムの製作が行われ、3kW出力の負荷平準化エネルギー貯蔵装置として試験が行われる予定。当フェーズ中に、電力品質向上(PQ)向けに100kW出力を持つモーター/発電機の製作も開始される。フェーズIIIでは、当フライホイールはPQ装置に組み込まれ、テストのため、南カリフォルニア・エディソン社へ出荷される。

 また、当100 kWモーター/発電機システムも超伝導機として設計されるかもしれない。IGC社は、当モーター/発電機システム・プロジェクト向けに、約10 mの高温超伝導(HTS)厚膜テープを供給する契約に署名している。ボーイング社は、当プロジェクトのこの段階についてはコメントするのを差し控えているが、この部品に超伝導体を使おうという動機は、最も可能性の高いサイズと効率の点にある。この2点は宇宙および陸上応用にとってきわめて重要だからである。ボーイング社宇宙・防衛システム部のH.Ahlstrom技師長は次のように語った。

 「フライホイールには負荷平準化や電力品質向上以外に広い範囲の応用分野がある。宇宙応用にとっても非常に重要になり得る。ボーイング社は、衛星にフライホイールを採用し、国際宇宙ステーションの電池をフライホイールによって代替する計画の推進において先進的役割を果たしてきた。フライホイールは鉛蓄電池のように摩滅しない。電池は、ある限定回数の充電、放電サイクルの後、動作不可能になる。電池をフライホイールへ単純に置換することにより、衛星システムの寿命が大幅に延命できる」。

 ファントム工場フライホイール計画部のM.Strasik部長によればボーイング社は既に小型検証用フライホイール・エネルギー貯蔵システムを開発している。この原型装置はより大型のフライホイール・システムを開発するための基礎として用いられるだろう。当小型単位装置は、現在宇宙での使用可能性を評価するためテスト中である。当システムは、環境的に適合するだけでなく、従来の電池使用につきものの不利性のほとんどを解消するものである。ファントム工場は、超伝導フライホイール・エネルギー貯蔵システムを開発する素晴らしく高度の技術を有している。当工場は長年その技術に携わっており、設計の核心的部分についていくつかの特許を保持している。業界を先導する同社の高度技術を高温超伝導結晶育成と高強度複合材料の製造工程に導入し、原型装置を製作する計画である。

 種々の情報通によれば、フライホイールの陸上応用のうち、電力品質向上は長時間にわたる負荷平準化より大きな可能性を持つより大きな市場を表している。マイクロSMESと比較して、フライホイール・システムは多くの有利性を提供する、即ち高いエネルギー密度(おそらく30倍大きい)、HTS使用による遥かに安い低温冷却コスト、さらに格段に低廉な資本および寿命・更新コストが付加される。フライホイールの寿命更新コストは、電池使用UPSシステムの1/5と推定されている。幾つかの会社が開発している非超伝導式アクティブ磁気ベアリングによるシステムは、大多数の応用に対して、適当な効率レベルを提供できない。さらに加えてベアリングの安定性保持のために設置しなければならない制御用エレクトロニクスのコストは高価であり、必要なクライオクーラーと低温包囲物を含めた場合でも、最終的により安価なシステム・コストに帰着するという。

 IGC社と南カリフォルニア・エディソン社に加えて、ボーイング社の共同開発者にはバルク体製造のため、超伝導材料を提供するPraxair社、フライホイールのためにパルス管冷凍機を設計するMesoscopic Devices社,モーター/発電機システムの設計を助けるAshman Technologies社、プロジェクトのコンサルタントであるANLが含まれている。上記のように、本プロジェクトは3年間で10 kWhのフライホイール・エネルギー貯蔵装置を開発するという大変意欲的な開発プロジェクトであり、今後の進展を注視していくとともに、わが国における同種プロジェクトの進展を期待したい。

(YF)