SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 5, Nov. 1999.

3.強磁場低温表面分析計の開発
静かな直冷式マグネットが完成
_金属材料技術研究所_


 強磁場でもたらされる相転移など種々の現象を直接観察する目的で強磁場で動作する可変温度走査プローブ顕微鏡(SPM)の開発研究が金属材料技術研究所機能特性研究部(高増正、木戸義勇、両氏)で行われている。走査トンネル顕微鏡については、既に、強磁場低温中で磁束の空間分布の磁場依存性の研究などに用いられているが、原子間力顕微鏡や磁気力顕微鏡のように光学的検出を要求する走査顕微鏡と強磁場の組み合わせは、マグネットが液体ヘリウムの中にあるという事から考えられてこなかった。今回の装置の構成は、セイコーインスツルメンツ社によって市販されている可変温度SPMを基にし、それを室温内径18 cm、中心磁場7.5 Tの超伝導マグネットに組み合わせた物である。この実現にあたり、直冷式の静かなマグネットが開発された。直冷式マグネットは、通常、小型のコンプレッサーでGM冷凍機を動作させることで超伝導コイルを冷却しており、簡便さの点でこれからの超伝導マグネットの主流となるべき存在であるが、従来開発され製品化された物は、冷凍機による振動が大きく、磁場の揺れと、装置へ渦電流結合による振動伝達で、精密な実験には利用できなかった。今回、目標とする顕微鏡との組み合わせでは、特にこの点の解決が大きな課題であった。

 振動を減らす為には次の点が考慮されている。1.本体を冷凍機側とコイル側に分割して間に緩衝要素を挟み、冷凍機側の振動がコイル側に伝わりにくいようにした。2.コイル側の容器がカウンタウエイトとして機能するよう冷凍機側に比べて重量を約600 kgと冷凍機側の容器に比べて約5倍に大きくした。製作したマグネットの写真を図1に示す。充分冷却した後、手で触れてみると、冷凍機容器の振動は従来機の振動と同等であるのに対し、マグネット容器では殆ど振動を感じない。実際、振動計で測定したところマグネット側での振動加速度は全ての周波数成分に対し、従来機の10分の1以下に減少している事が分かった。

 この、マグネットを用いてハードディスクの磁気記録パターンの磁場により消失する課程を磁気力顕微鏡で測定した結果が図2である。磁場を増加するのにつれ、磁気記録パターンが消え、板面の凹凸に相当するパターンが現れてくることが示されている。近々、温度変化にも対応できるように改造される予定である。

(桜川)


図1 振動を殆ど感じない直冷式7.5 T超伝導マグネット(東芝製)


図2 磁気力顕微鏡パターンの磁場変化
AFMモードで表面の凹凸を求めた後、短針を40nm上げてMFMモードで測定した。MFM像の1目盛は1μm