SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 5, Nov. 1999.

2.超強磁場発生用の新しいNb3(Al,Ge)極細多芯線


 現在、金属系超伝導マグネットで発生可能な最大磁場はNb3Sn線材を使って22 T 程度、また最近開発された急熱急冷法Nb3Al線材を使っても24 T 程度が限界と考えられており、それ以上の超高磁場発生をするには酸化物系超電導線材(Bi-2212及びBi-2223)に頼らざるをえないと考えられてきた。ところが、金属材料技術研究所で開発されたNb3(Al,Ge)極細多芯線は30 T級の超強磁場が発生可能なJc-B特性を示し、注目される。現在、酸化物系超伝導線材応用のターゲットの一つとして20 T 以上の超強磁場発生用超伝導マグネットがあるが、30 T 近い磁場が金属系超伝導マグネットで発生可能となると、酸化物系超伝導マグネット応用の舞台はより超強磁場側(30 T超)にシフトすることが考えられる。

 Nb3(Al,Ge)極細多芯線の新製法は、急熱急冷変態法Nb3Al線材の製法と極めて類似している。急熱急冷変態法とはNb/Al極細多芯構造複合線材を通電により2000 ℃付近へ急加熱し、Ga浴中を通過させ急冷する処理で(図1参照)、線材中にNb-Al過飽和固溶体フィラメントが形成する。この線材を750〜850℃で追加熱処理すると、このフィラメントはNb3Al-A15型化合物に変態し、従来の実用超伝導線材の3〜5倍大きいJcが得られる。 Nb3(Al,Ge)極細多芯線の製造では、Nb/Al複合線の代わりにNb/Al-Ge複合線を使用する。この場合、急熱急冷処理により過飽和固溶体は生成せず、秩序度の低いA15型化合物が直接生成する。この状態でのTcは15 K程度で、Hc2(4.2 K)も20 T程度である。この線材をさらに750〜850℃で追加熱処理するとTcは19.4 Kまで向上し(図2)、Hc2(4.2 K)も40 T近くまで向上する(図3)。追加熱処理により結晶秩序度が向上したためである。

 金属材料技術研究所のグル−プ(井上廉、飯嶋安男、菊池章弘の各氏)は数年前よりNb/Al-Ge極細多芯複合線の作製に取り組んできた。初期には、Al-Ge芯径が1.5μm以上の線材しか作製できず、このような太い芯径の複合線を使った場合、低磁場でのJcが低く、実用的にはもう少しと言った特性しか得られなかった。今年に入り、複合加工法の見直しにより、芯径0.3μmの複合線(芯数317×361)作製に成功し、急熱急冷処理を試みたところ、図4に示すようにJcが2〜3倍増加し、4.2 KでのJcは21 Tで250 A/mm2を越え、Nb3Al極細多芯線のJc値を上まわった。さらに25 Tで150 A/mm2に達した。この値は金属系極細多芯超電導線材の中で、最高であり実用的に注目される。

 超電導線材を超電導マグネットに巻いたとき重要な特性はnon-Cu overall Jcである。井上氏によるとNb3(Al,Ge)線材形状の最適化はまだ行われていないので、推定するしかないが、Nb3Al線材の場合、線材作製に必要な余剰Nb比(急熱急冷時に機械的強度を持たせるため必要)は0.6まで、減少可能である。従って、Jcを1.6で割った値が断面形状を最適化した場合の Nb3(Al,Ge)極細多芯線材の non-Cu overall Jcと予測できる。図4のJcを使うと、24 T の超強磁場中でのnon-Cu overall Jc(4.2 K)は100 A/mm2を越える事が可能と予測できる。なお、現在の高磁場用に最適化した(Nb,Ti)3Sn極細多芯線でも20 Tで100 A/mm2 以上のnon-Cu overall Jc(4.2 K)を得るのは容易でない。

 さらにNb3(Al,Ge)では −dHc2/dTがNb3AlやNb3Snより大きい事が知られており、動作温度を4.2 Kから1.7 Kまで低下すると、Hc2は4 T向上することが報告されており、Jc特性も4 T近く向上することが予測できる。従って、今後の開発が全て順調にいったら、28 T程度の超強磁場を発生できる超電導マグネットがNb3(Al,Ge)極細多芯線を使用する事で可能となるかもしれない。

 かなり、楽観的な予想を述べたが、ようやく実用検討に値する特性が得られ始めた段階で、未検討の課題が多いし、Jc自体もっと向上する事が望まれる。従って応用に関しては今後の検討を待たなくてはならないのが実状である。しかし、未検討な課題が多い事を含めて、巨大なポテンシャリティを持つ新金属系超電導線材が出現したと言える。

(つくば超電導おたく通信)


図1 急熱急冷装置の概念図


図2 Nb3(Al,Ge)極細多芯線の追加熱処理によるTcの向上


図3 クレ−マ−プロットによる外挿で求めたNb3(Al,Ge)極細多芯線のHc2(4.2 K)


図4 Nb3(Al,Ge)極細多芯線と急熱急冷変態法Nb3Al極細多芯線(Mg添加した線材と無添加の線材)のJc-B特性の芯径依存性