SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 5, Nov.1999.

1.超電導磁石を用いたアオコ除去装置の開発
−(株)日立製作所−


 湖沼の多くは、都市化に伴う生活排水の流水などにより富栄養化が進んだ結果,藻類の過剰な増殖を引き起こしアオコが発生して水質障害を生じており、発生したアオコを高速で除去できる浄化装置の開発が望まれていた。今回、超電導磁石を応用した磁気分離アオコ連続除去装置が開発され、高速・大容量浄化装置の実用化の可能性がでてきた。

 日立製作所機械研究所環境機器開発センタ第一研究室室長の佐保典英主任研究員は、「超電導磁石外に磁気フィルタを配置して連続的にアオコを除去できる構造を開発し、大容量実用機の実現に近づいた。」とコメントしている。磁気分離法は, 従来製鉄所内において再生使用される多量の冷却水中から微細な鉄粉を除去する浄化装置に適用されていた。アオコ等の藻類除去に応用する場合は、藻類が非磁性であるために,分離前の前処理として取水した汚濁湖沼水に少量の磁性粉と凝集剤を加えて混合・攪拌し,磁性粉と原水中の汚濁粒子が一緒に凝集した図1に示すような磁性フロックと呼ばれる柔らかな塊を形成する。この磁性フロックを磁石の磁気力で分離・除去し、湖沼水を浄化する。磁性フロックとはいえ、磁性粉の含有量は非常に少ないので、速い流れの中から漏れなく吸引・捕捉するためには非常に強い磁場が必要となり、超電導磁石の適用が有利となる。

 磁性体の金網等を積層した磁気フィルタを電磁石の両端磁場内に配置し、前処理した汚濁湖沼水を通水する。磁気フィルタの細線の周囲には磁束線が集まって非常に大きな磁気勾配が生じるので、磁性フロックを強力な磁気力で吸引・捕捉できる。捕捉後磁気フィルタを磁場外に移動すれば磁気力は消滅し、捕捉した磁性フロックを磁気フィルタから簡単に洗浄除去できる。試作された装置は、磁性フロックを生成する前処理部、磁性フロックの捕捉分離と洗浄除去を行う連続磁気分離部、および脱水、磁性粉の回収を行う後処理部から成り、一貫かつ連続的に処理できるシステムで400m3/日の処理能力を有している。

 図2は上記システムのうち連続磁気分離部の構造を示すもので、円筒状磁石を上下に有する冷凍機直冷型のツイン型超電導磁石とその間に設置され左右に移動するメイン磁気フィルタと、下部磁石の漏れ磁場内で回転するサブ磁気フィルタで構成され、磁石励磁状態で磁性フロックを連続分離・除去できる構造となっている。すなわち、メイン磁気フィルタの中央よりも左右どちらか一方側が超電導磁石間に形成された磁場内にあって磁性フロックを捕捉している時は、他の側は磁場外にあるので捕捉した磁性フロックを洗浄除去することができ、磁気フィルタを移動させれば、洗浄された側が今度は磁場内に位置する。また、サブ磁気フィルタでは、磁石下端の磁場内で磁性フロックを捕捉し、磁場外の他の側で捕捉した磁性フロックを洗浄除去することができる構造である。サブ磁気フィルタで磁性フロック群の大半を占める大きいサイズのフロックを予め捕捉し、メイン磁気フィルタへの負荷を低減する。本装置により、従来のろ過装置の10倍〜100倍の通水速度(フィルタ部を通過する被処理水の流速)360m/時で90%以上のアオコを連続除去する性能を実証し、実用化に向け大きく前進した。

(エバーフラワ−)


図1 磁性フロックの模式図


図2 連続磁気分離部の構造