SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 4, Aug. 1999.

7.超電導トランス開発本格化_富士電機・九大_


 (財)福岡県産業・科学技術振興財団は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け、平成10年度地域コンソーシアム研究開発事業・ベンチャー企業育成型コンソーシアム研究開発事業として「高温酸化物超電導システムの開発研究」を平成10年10月より開始している。

 この事業は名前の示すとおり、九州大学を軸に福岡県を中心に活動する企業(九州変圧器株式会社、株式会社福岡機器製作所、日本タングステン株式会社、九州電機製造株式会社、富士電機株式会社)と九州工業試験所がコンソーシアムを組み、具体的なターゲットとして高温酸化物超電導(HTS)変圧器を2000年3月までに開発するプロジェクトである。

 今回、このプロジェクトの主査を務める九州大学超伝導科学研究センターの船木和夫教授のグループは、すでに平成8年4月、富士電機(株)等と一緒に、ビスマス系酸化物超電導線を用いた液体窒素冷却の定格容量500 kVAの単相HTS変圧器の実証器を開発し、酸化物超電導体を電力機器に世界で初めて適用しその可能性を示してきた。(SUPER-COM Vol.5、No.2、1996-5)またこの変圧器を66Kの過冷却液体窒素中で運転し、800 kVA相当の通電試験にも成功している(SUPER-COM Vol.5、No.4、1996-10)。

 これらの結果をベースに、次世代応用のひとつとして考えられる地下変電所用HTS変圧器等へのステップとして、今回のプロジェクトでは高電圧型超電導機器の基盤技術の確立を狙っている。具体的にはスポットネットワーク配電用レベルの高電圧型試験器であり、系統での投入試験を前提にJECで規定されている試験に対応することが設計目標となっている。また、励磁突流や突発短絡に対応できる巻線構成を開発目標の一つとしている。

 今回開発する試験器と前回の実証器との比較を次表に示す。

 表中において、括弧内の数値は66 K過冷却液体窒素中で運転した場合。実証器は実績値、試験器は設計値を示す。

 今回のプロジェクトで開発する変圧器は容量的には前回と同レベルであるがより実用化を意図した開発項目が含まれており、次のステップへ進む重要な段階と位置づけられる。

 一方、HTS変圧器開発の世界の状況をみると、米国ではDOEのSPI計画のもとで2つのHTS変圧器開発が進行している。Waukecha Electric Corp.とIGC社等のグループはBi2212線を用い10 MVAをターゲットに、冷凍機冷却の単相1MVAのデモ器を製作している。米国ABB社とASC社のグループも10 MVAプロトタイプ器を2、3年内に試験する計画を発表している。欧州ではABB社がASC社のBi2223銀シース線を用い、3相-630 kVA器を開発し、スイス・ジュネーブ市内での系統接続試験を実施している。現在はこの2社にEdF(フランス電力庁)を加え、30 MVA実用器へのステップとして10 MVAプロトタイプ器開発計画を発表している。

 いずれのプロジェクトも今後、HTS線の大電流容量化、低損失化、機械的強度の向上等が必要であり、また変圧器としての過大電流対策技術や冷却技術、絶縁技術等電力機器としての総合的な基盤技術の確立が必要である。

 これらの問題が解決できるとHTS変圧器の優位性である小型・軽量、不燃性、効率向上が現実となり、より環境に適合した変圧器が誕生することになる。

(ミレニアム21)

<表>

         <単相実証器>       <単相高圧型試験器>
開発年      1996-4          2000-3(予定)
開発機関等    九大/富士電機      福岡県コンソーシアム
容量       0.5MVA(0.8MVA)      0.5MVA(1.0MVA)
一次/二次電圧   6.6/3.3 kV        22/6.9 kV
一次/二次電流   76/152 A(121/242 A)    23/73(45/145 A)
励磁突流                  特性劣化しない
突発短絡     短絡強度なし       特性劣化しない
HTS素線      Bi2223多心テープ線     Bi2223多心テープ線
         純銀母材、ツイスト無     銀合金母材、ツイスト無
         絶縁被覆無        PVF被覆