SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 4, Aug. 1999.


6.超伝導マグネットで世界記録 磁場23.4 Tを発生
_金材研・日立製作所・日立電線_


 科学技術庁金属材料技術研究所強磁場ステーション(TML)のグループ(和田仁、木吉司、北口仁、小菅通雄の各氏)は、(株)日立製作所(岡田道哉、和久田毅、田中和英の各氏)、日立電線(株)(佐藤淳一、大圃一実両氏)と共同で開発した2個のBi2212コイルを金属系18 T超伝導マグネットに組み込んで、直径13 mmのクリアボアに23.4 Tの磁場を発生することに成功した。これは超伝導マグネットとしてはTMLで平成8年に発生した22.8 Tを更新する最高磁場である。

 この度、発生した磁場は、タンパク質の立体構造等の解明を目的とする1 GHz NMRマグネットの発生する磁場23.5 Tにほぼ到達しており、その実現に向けた重要な成果として期待されている。

 金属材料技術研究所で発見されたBi系酸化物超伝導材料は、4.2 K近傍に冷却すると、20 T以上の磁場でも臨界電流が殆ど減少しない。これに対して、現在使用されている金属系超伝導材料は20 Tを越えると臨界電流が急激に減少し、それ以上の強磁場を発生することが難しい。Bi系酸化物超伝導材料はこのような超強磁場を発生するコイル用線材として期待されており、超伝導材料研究マルチコアプロジェクト第U期で金属材料技術研究所を中心に強磁場応用の研究が進められてきた。

 今回使用した2個のBi2212ダブルパンケーキコイルのうち、外側のコイル(コイルA)は有効内径61mm、巻線内径64 mm、外径158 mm、巻線高さ223 mmで、18 Tの外部磁場において21 T発生することを既に報告した(Vol. 8, No. 1)。内側のコイル(コイルB)は新たに製作したもので、巻線内径16.5 mm、巻線外径48.5 mm、巻線高さ84 mmである。Bi2212/Ag-Mg線材(厚さ0.24 mm、幅5 mmを2枚共巻)を使用し、6個のダブルパンケーキで構成される。

 コイルAは1.8 Kの飽和超流動ヘリウムで冷却されているため、その内側に真空断熱層を持つ試料用デュワーを組み込むことで各種測定に使用していた。コイルBもこの試料用デュワー(内径50 mm)に組み込んで励磁試験を行った。このため試験は、コイルBが4.2 K、それ以外のコイルは1.8 Kという温度条件で実施した。

 18 Tの磁場中で、コイルAに217 Aまで通電し、3.44 T(中心磁場21.44 T)を発生した。コイルAはこの励磁までに20回の21 Tまでの磁場発生を行い、また昇温・冷却過程を一度経験しているが、超伝導特性の劣化は見られていない。さらにコイルBに336 Aを通電することで1.98 ATを発生し、23.4 Tの中心磁場を安定的に発生することができた(金属系18 T、酸化物系5.4 T)。超伝導マグネットだけを使用して23 Tを越える磁場を発生したのは世界で初めてである。

 コイルBにはAg-Mg合金をシース材とする線材を使用した。銀合金をシース材とする線材は機械的特性に優れているため、今後のBi系酸化物線材の主流になると期待されるが、これまでは純銀の線材と比較して臨界電流密度が小さい傾向があった。このたびの成果では、巻線部の電流密度として112 A/mm2が得られており、銀合金線材のコイルで純銀テープ線材のコイルに匹敵する電流密度が得られることも実証できた。

 TMLでは現在1 GHz級NMRマグネットの開発が進行中である(Vol. 8, No. 2)。マグネットは、NMR測定に必要な磁場の均一度と安定度の下に、23.48 Tの磁場を発生することを目標としており、内層のBi系酸化物超伝導コイルは、巻線内径75 mm、巻線外径130 mm、巻線高さ600 mmで、2.4 Tを発生する設計となっている(金属系外層マグネットが21.1 Tを発生)。TMLのリーダーである和田仁総合研究官は、「このたびの成果で、目標とする磁場の発生については目処が得られた。今後は磁場の均一度と安定度を向上する研究を並行して進めていく。」と語っている。      (ピカチュウのパパ)


写真 使用した2個のBi-2212 ダブルパンケーキコイル
左:コイルA 右:コイルB