これに対し、松下電器、住友電工、京セラの3社共同プロジェクト(瀬恒謙太郎氏ら)は、マイクロ波超伝導フィルタが、受信のみならず送信フィルタとしても移動体通信基地局の高性能化を可能とする特性を持つことを実証し、新聞発表を行った。この3社プロジェクトは平成7年度から10年度までの4年間、高温超伝導フィルタを利用して、移動体情報伝送システムの省エネを実現するための実用化研究開発を推進してきた。プロジェクトのターゲットは、受信フィルタに加えて送信フィルタの試作、設計、さらにはこの素子のための薄膜基板材料、および素子を組み込む冷却システム、および部品の設計、試作であった。
超伝導フィルタの動作には冷凍機が必須であるが、送信・受信ともに冷却の負荷を軽減するためにフィルタ素子の十分な小型化が望まれる。図1、2は開発されたフィルタ素子で、それぞれ独自の設計、構造により小型化を図っている。基板はLaAlO3単結晶のHo-Ba-Cu-O薄膜が使用された。
図1-aは8段のヘアピン型ストリップ線路を利用した受信フィルタであるが、同等の特性を示す通常のストリップ線路型に比べて、1/3程度の素子基板サイズとなっており、図1-bに示すように8段構成で80 dB以上の帯域外抑圧量を実現している。一方、送信フィルタは、以前より楕円共振器による大電力応答の検討がなされていたが、今回100 W以上の入力に対して、挿入損失は変化がなく、0.3 dB以下であることが確認された。さらに今回、送信パワーアンプから発生する帯域外の高調波成分や雑音成分の受信回路への影響を避けるための急峻なスカート特性が、図2に示すように楕円共振器の段数を増やして実現できる設計法が確立された。
現在のところ、国内での移動体電話基地局システムに対する高温超伝導受信フィルタ応用のメリットは、海外に比べて小さいと考えられているが、今回の発表は、送信・受信をあわせて超伝導による低損失のメリットをアピールしたものである。移動体電話も今後、使用周波数帯域を拡げたW−CDMA方式が検討されており、国内・海外を問わず、ディジタル伝送の低歪み特性を確保するための送信パワーアンプの効率改善のため、超伝導フィルタの超低損失特性が重要となるであろう。この発表に対し、「ワイドバンドCDMAサービスなど、映像情報を含めた大量の情報を伝送するために要求される超高性能特性を提供し、なおかつ省エネを実現するためのキーとなるだろう」と超電導工学研究所の田中所長もコメントしている。 (Forget-me-not)
図1-b 8段受信フィルタ特性
図2 楕円共振器型送信フィルタパターン