SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 4, Aug. 1999.

20.§書 評§


「多体電子論II 超伝導」
青木秀夫 監修、黒木和彦・青木秀夫 著
本体価格3800円
A5判・187ページ
東京大学出版会
ISBN 4-13-060603-4

 本書は、青木秀夫監修による多体電子論シリーズ、第I巻「強磁性」、第II巻「超伝導」、第III巻「分数量子ホール効果」の中の第II巻目である。全シリーズを通して、強く相互作用して互いに避けあって運動する多体電子系が「電子相関」の効果によっていかに多様でエキゾチックな物性を示すのかを解説している。本書では、銅酸化物高温超伝導体に直接あるいは間接的に関係のある問題、とりわけ「電子間斥力起源の異方的超伝導の可能性を探る理論」を解説することに的が絞られている。このために総合報告的な色彩が強く、いわゆる超伝導の教科書とは一線を画している。グリーン関数やファインマン・ダイアグラムの知識が必要とされるが、数式や理論モデルの物理的背景も随所に解説されており理解の助けとなっている。他書に載っていないことも多く書かれており、また最近の文献も数多く引用されているので、この分野の現状を知りたい大学院生、研究者には役に立つ本であろう。

 具体的な内容は以下のようになっている。まず、第1章ではフォノンを媒介とする通常の超伝導体に対するBCS理論(弱結合理論)とエリアシュベルグ理論(強結合理論)が概観されている。第2章では銅酸化物高温超伝導体における実験事実(バンド構造、光学伝導度、磁性、超伝導電子対の対称性)が簡単に紹介され、第3章では銅酸化物高温超伝導体の電子状態を記述すると考えられる2次元系の理論模型が解説されている。続く第4章では、出発点をフェルミ液体、非フェルミ液体とした場合の2通りの解析的理論が、第5章では数値計算によってどの程度実験事実が再現できるのかが解説されており、この2章が本書の中心をなしている。第6章で2次元系のまとめが与えられる。第7章以降は1次元系に当てられており、序論(第7章)に続いて1次元構造を持つ銅酸化物における実験事実(第8章)、1本鎖と梯子格子系に対する朝永-ラッティンジャー液体の弱結合理論(第9章)、数値計算からのアプローチ(第10章)、2次元性の効果(第11章)の解説が与えられている。

(MN)