SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 4, Aug. 1999.

17.PrBaCuOをバリアとしたジョセフソン接合に
新しいモデルを提案
_東芝_


 東芝研究開発センターのグループは、1999国際超伝導ワークショップ(6月27-30日、ハワイ州カウアイ島で開催)において、PrBaCuO (PBCO)をバリアとした高温超伝導ジョセフソン接合の特性を合理的に説明できる新しい接合モデルを提案した。このモデルは、これまでの解析で見過ごされてきた、接合内でのバリア層の厚さの揺らぎを直接取り入れているのがミソで、このことにより、PBCOをバリアとした接合の特性が従来のトンネル理論の枠組みで、十分に説明できることが明らかになった、と言う。

 PBCOをバリアとしたジョセフソン接合は高いIcRn積と、ヒステリシス性の弱い電流-電圧特性を示すことから、SFQ(単一磁束量子)論理回路などへの適用が期待され、各所で開発が進められてきた。この種の接合は、1)バリア層の厚さが10 nm程度と厚い場合にもジョセフソン特性が観測される、2)接合抵抗が温度に対して非線形な依存性を示す、など、通常のトンネル接合とは異なった振る舞いを示す。後者の特徴は、接合を通過する準粒子電流に、少数の局在準位を介したホッピング伝導が寄与していると考えると説明できることが判明しているが、前者に関しては、クーパー対が共鳴トンネルしている可能性を含め、様々な議論が行われてきた。

 東芝のグループは、まず、試作したランプエッジ型接合のコンダクタンスの温度変化を詳細に評価し、接合を流れる準粒子電流が、PBCOバリア中に存在する、半径1 nm程度の局在準位を介した共鳴トンネルとホッピング伝導によって支配されていることを確認した。局在準位の半径から推定されるPBCOバリアのポテンシャル障壁は40 meV程度である。一方、実測されたジョセフソン電流の値は、このようなポテンシャル障壁をクーパー対が直接トンネルする、と想定したものより3-4桁大きいものであった。

 この矛盾を解決するために、同グループは、バリア層厚の揺らぎが、電気特性に与える影響について検討を加え、バリア層の厚さが接合内部で正規分布に従って変動している、という簡単なモデルを採用することで、全ての実験結果が矛盾なく説明できることを見出した。このモデルではジョセフソン臨界電流と接合コンダクタンスの両者をバリア厚の平均値と標準偏差をパラメターとして解析的に表すことができる。

 このモデルに従うと、準粒子の共鳴トンネルで支配される接合コンダクタンスと、クーパー対の直接トンネルで流れるジョセフソン臨界電流とが本質的に異なったバリア厚依存性を持つことに起因して、バリア厚の揺らぎの影響も異なって現われる。バリア厚変動の標準偏差を2 nmと仮定すると、前者ではノミナルなバリア厚に期待されるものに対して8倍程度の値が実測されることになるのに対し、後者は実に、8000倍もの値が得られることになる、という。この見かけ上の臨界電流の増大は、実験結果と良く合致している。また、このモデルを使って実験結果から推定されたPBCO中の局在準位密度は1021 eV-1cm-3程度であった。

 このモデルを提案した東芝研究開発センターの吉田二朗研究主幹は、「これまでPBCOをバリアとした接合でたびたび報告されてきた、バリアの厚さから考えて異常に大きいジョセフソン電流値の問題は、今回のモデルの範疇で十分説明でき、クーパー対の共鳴トンネルのような特殊な状況を想定する必要はないだろう。PBCO中の局在準位密度は、まだ若干大き過ぎる感じもするが、PBCOが金属- 絶縁体転移に極めて近い材料だということを考えると、不自然な値ではないように思う。今回のモデルはPBCOをバリアとした接合を想定しているが、最近話題のInterface Engineered Junctionでも、多かれ少なかれ同じ様な現象は起こっているはずで、この点も今後検討していきたい。」と語った。

(祥と悠のお父さん)