ハワイ・カウアイ島で開催されたISTEC-MRSワークショップにおいてNECグループ(佐藤哲朗氏、日高睦夫氏、田原修一氏)と超電導工学研究所グループ(文建国氏、腰塚直己氏、田中昭二所長)は、界面改質バリアの形成機構解明に成功したと報告した。また、同会議においてNECグループでは1000個の界面改質型接合アレーにおいて、1s =10 %という良好な臨界電流値のばらつきを報告している。これは、1000個規模の接合にわたって界面改質バリアがピンホールなしに形成されていることを示しており、高温超電導LSIに向けての大きな足がかりとなる結果である。
イオン照射により加工されたエッジ表面のTEM(透過型電子顕微鏡)観察により、エッジ表面が厚さ約1.5 nmのアモルファス層で被覆されていることが確認された。またこのアモルファス層の組成をEDX分析により評価した結果、Cu濃度がほとんどゼロに近いほど低下していること、Y:Ba比が1:2ではなく、1:1に近くなっていることが明らかとなった。このエッジ表面を酸素雰囲気中で約700 °Cに昇温した後上部電極YBCOを成膜した試料に対して同様の測定を行ったところ、上下のYBCO層界面に立方晶に近いペロブスカイト構造(格子常数0.41 nm)を持つ,厚さ約2 nmの結晶化した層がピンホールなしに連続して存在することが確認され、組成分析から123層と比べるとYが高く、Cuが低いことが明らかとなった。
これらの結果から、両研究グループでは界面改質バリアの形成機構を以下のように推測している。図に示すようにエッジ加工プロセスの間、下部電極YBCOエッジ表面はイオン照射によりダメージを受け、アモルファス化する。このとき、このアモルファス層の組成は選択スパッタリングにより123組成からずれる。次に酸素雰囲気中で上部YBCOの成長温度まで試料が加熱されている間に、このアモルファス層が結晶化すると考えられる。この結晶化した層が界面改質バリアの正体であり、Baベースのペロブスカイト構造を持つ化合物(Y1-xCux)BaOy(x<0.5)であると推定している。
また、界面改質型接合の特性もしだいに明らかになってきている。臨界電流の温度依存性はPBCOバリアを堆積した場合と変わらないが、常電導抵抗は温度に依存せずほぼ一定である。これはPBCOバリアの場合と大きく異なっており、粒界接合のふるまいに似ている。さらに、粒界接合をはじめとして従来の高温超電導接合のIcRn積はJcの0.5乗に比例する傾向が見られるが、界面改質型接合のIcRn積は従来の0.5乗則より弱いJc依存性を示した。界面改質型接合における弱いJc依存性は高Jc側でより顕著となり、IcRn積は2.5 mV付近で飽和する。
特性の均一性においても、冒頭に述べた1000接合アレーの他に、12接合で1s =5%という結果が得られている。この均一性は10000個の接合を使用したLSIの動作が可能なレベルにある。12接合程度の限られた領域であるがこのような高い均一性が得られていることは、1000接合アレーの結果と合わせて、将来の高温超電導LSIに十分期待を持つことができることを示している。
一方、NECグループとは独立に界面バリアを利用した優れた特性のランプエッジ接合を開発した米国のConductusグループ( B. Moeckly & K. Char )からは、格子定数が0.51 nmとNECグループの0.41 nmより長いことや123組成からの明らかな組成ずれが観測されていないことなど異なった界面バリアの分析結果が報告されている。Conductusグループでは、NECグループが行っていない400〜500°C付近での真空アニールを行っており、両者の界面改質バリアは別のものだという可能性もある。もしそうだとすると、界面改質バリアのバリエーションは広がるわけで、さらに優れたバリアの存在の可能性もある。今後の研究の進展に大いに期待したい。
(都万)