これまでBi系高温超電導ケーブルの分野ではJcの高いテープ線を素線に用い、積層することで大容量化した多層型ケーブルの開発が進められてきた。しかし、この構造で積層枚数を増やしていくとケーブルの外側に配置された素線はインピーダンスが小さくなるため、交流通電時に電流分布に偏りができる。この現象は偏流と呼ばれ、交流通電損失の増加要因となっていた。偏流は導体のインピーダンスの不均一により発生するので、どの素線もインピーダンスが等しくなるように調整すれば偏流は解消される。多層導体では各層のスパイラルピッチを調整する方法やテープ線同士を撚りあわせる方法が提案されているが、将来の大容量送電ケーブル等には撚線を用いた転位型導体の方が交流損失が小さく、有利であると考えられている。
素線を自由に撚りあわせるためには断面形状が円形の新しい線材_丸線_を開発する必要がある。従来のBi系高温超電導線材は超電導結晶が板状であることを利用し、テープ形状に成型することで、緻密で配向した結晶組織を形成し高Jc特性を得ていた。両社が開発した丸線ではフィラメントの形状をテープ状にすることで高Jc特性を得ることができたという。さらに、種子田氏は当日の発表の中で最近の試作結果に言及し、さらに丸線の高Jc化が進んでおり、トップデータでJc=16,000 A/cm2級の線材が得られていることを明らかにした。
導体化を担当した住友電工の向井英仁氏は「実際の超電導ケーブルはドラムに巻いて運送されるため、導体は曲げても劣化しにくいスパイラル状に集合することになる。この集合方法で機械的に劣化なく導体が製作できることが今回の試作で確認できた。撚り本数・集合本数の増加による素線あたりのIcの低下が見られたが、これは導体の自己磁場による劣化であることが明らかになった。今後は素線のIc-B特性の向上が大きな開発課題となる。」と述べている。
(まるちゃん)