SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 4, Aug. 1999.

12.バルク超電導体の機械特性が大幅に改善
エポキシ系樹脂を真空含浸 _超電導工研_


 超電導工学研究所富田優氏は繰り返し使用や、強磁場下での強い電磁力にも耐えるバルク高温超電導体の開発に成功した。

 現在、高温超電導材料開発は、その実用化に向けて活発な応用開発が進められている。中でも、RE-Ba-Cu-O超電導体(REは希土類元素)は、高温高磁場中でも高い臨界電流密度を有することから、バルク応用や線材応用などで大きな注目を集めている。

 最近、バルク高温超電導体の応用として、その強いピン止め力を利用し、大きな磁場を捕捉させて、永久磁石型の強力超電導バルク磁石として各種の磁場応用に供する分野が脚光を浴びている。これは、永久磁石では、その磁場強度がせいぜい1テスラ(1万ガウス)程度であるのに対し、超電導バルクでは10テスラ以上の磁場発生が可能になるからである。

 しかし、このような強磁場ではバルク体に大きな電磁力が働き、バルク体が破壊されることも分かってきた。本来バルク体は陶器と同じセラミックス材料であるため、金属に比べて機械的特性が大きく劣るためである。さらに、RE123系では正方晶から斜方晶への相転移による歪の影響で、ab面に沿ってクラックが必ず発生するため、機械強度が低下するという問題を有している。

 超電導工学研究所ではバルク超電導体に、エポキシ系樹脂を真空中で含浸する手法により、その機械特性が飛躍的に向上することを明らかにした。図に示すように樹脂含浸を施したバルク体は繰り返し使用による捕捉磁場の低下が殆ど見られない。

 開発者の超電導工学研究所第三研究部の富田優主任研究員は、「バルク超電導体の機械的特性が問題と聞いて、出向元の鉄道総研の研究で関わった超電導マグネットが頭に浮かび、樹脂によるコイル固定をヒントにトライしてみました。当初、樹脂をバルクに馴染ませることに随分苦慮しましたが、クラックや空孔を通して、樹脂がバルク内部に浸透することが明らかとなり、予想以上の好結果が得られました。バルク超電導体は湿気も嫌うことから、エポキシ系樹脂で表面を覆うことで、耐食性も向上するという二次的効果もあります。」と話している。

 同第三研究部の村上雅人部長は「始めてアイデアを聞いた時には、表面保護にはなるだろうが、機械的特性改善は無理だろうと思った。本人はぜひ試したいとのことで、実験を行ったが、予想をはるかに上回る結果で、本当に喜んでいる。実は、バルク応用の最大のネックが機械特性と認識していたので、今回の成果は世界中に大きなインパクトを与えると思う。」と、語っている。

(海岸通)


図 Sm1Ba2Cu3Oy (Sm211相30%) 捕捉磁場測定結果