SUPER COM Vol.6 No.1 1997.2 に掲載された記事によれば、「日立電線は、金材研と共同で、世界で初めて急熱・急冷法Nb3Al線材で小コイルを製作し、バイアス磁界21 Tで、4.2 Kで0.30 T、2.0 Kで0.68 Tの磁界発生に成功した。」 これにより、すでに急熱・急冷法Nb3Al線材のすぐれた高磁界特性が実証されているが、その本格的実用化のためには、安定化技術の確立が不可欠である。
その後の技術開発により、20 Tを超える高磁場においてブロンズ法Nb3Sn線材の2倍以上の臨界電流密度を有する500 m級長尺Nb3Al線材が急熱・急冷法で得られるようになっている。この製法では、線材を通電により約1,900 ℃に急速加熱した後、約50 ℃の液体Gaに漬けて急冷するので、融点が1,083 ℃のCuを安定化材として複合するために、結合面となる急熱・急冷処理直後のNb/Al線材の外側Nb表面とCuパイプ内面を機械的に荒らす一方、化学的に清浄化するなどの特殊表面処理を施してから嵌合し、その後の最終線径までの数十%の冷間加工度でCu/Nbの完全な金属結合が得られるようなプロセスを開発した。Cuを任意の厚さに複合でき、作業性も良いこの方法は、工業化に適している。表1に線材諸元、図1(A)、(B)に急熱・急冷処理後と安定化Cu複合後のNb3Al線材断面を示す。
最終的に800 ℃で熱処理を施したこのCu安定化Nb3Al線材を用いて試作した小型コイルは、4.2 Kで200 A(中心磁場1.4 T)まで熱暴走なしに安定に通電することができた。
さらに、このNb3Al線材へのCu安定化材複合技術の確立により、これまで超電導線材として実用化しているNbTi/CuやNb3Sn/Cu線材との低抵抗接続も可能になったので、最内層にこのCu安定化Nb3Al線材コイルをおき、バックアップとして外層にNbTi/Cu、Nb3Sn/Cu線材等から成るコイルを配した、中心磁場20 T以上の磁界を安定に発生する超強磁場ハイブリッド超電導マグネットの設計・製作が可能になる。
Nb3Al線材は、Nb3Sn線材に比べて本質的に耐歪み性にすぐれるので、線材に強い電磁力が作用する強磁場での使用に適している。急熱・急冷法で高磁界特性が飛躍的に改善されたNb3Al線材にCu安定化技術が加わったことで、強磁場をコンパクトに発生することが可能となった結果、たとえば、1GHz(23.5 T)NMRマグネットをはじめ、核融合炉用マグネットや加速器用2極・4極マグネット、さらには、Heを使わない高磁界伝導冷却マグネット等の実現可能性が非常に高くなったと言える。
この研究開発は第2期マルチコアプロジェクトに関連するもので、日立電線(中川和彦氏、岩城源三氏、森合英純氏ら)、金材研(和田仁氏、田川浩平氏ら)、日立製作所日立研(相原勝蔵氏、和田山芳英氏ら)など多くの研究者が携わっている。
(雪むかえ)
Nb3Al線材断面 (B)安定化Cu複合後
寸法 1.5×0.72 mm
Cu比 0.44
Nbマトリックス比 0.8
フィラメント φ81μm×84本
Jc at 21T & 4.2K >300 A/mm2