SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

9.湖沼のアオコ有効利用法開発


 磁気分離研究会(代表者・大阪大学産業科学研究所 西嶋茂宏助教授)は、超伝導磁石を用いて効率よく水中よりアオコをはじめとする微細藻類を分離する事に成功した。溜め池や湖沼などの富養化が原因でアオコ等の微細藻類が夏期に異常発生し、異臭の発生、へどろの蓄積など生活環境の劣化が問題になっている。これは生活雑排水によってリンや窒素が水中に蓄積されることが原因である。これまでは空気を水中に送り込むこと(エアレーション)でアオコの発生を抑える手法が用いられていたが、これでは充分発生を抑えられず、またリンや窒素を除去するわけでないないので根本的な解決はできていなかった。

 今回開発された技術は、まず強磁性を有する微粒子(シード剤と呼ばれ50ナノメートル程度の大きさ)を化学反応を用いてアオコが発生した水中に析出させる。この微粒子表面には水酸基が付いており、この働きのため、この微粒子はアオコと一緒に凝集する。この凝集体は微粒子の磁性のため強磁性体となるので、磁石で容易に分離できるというものである。この方法では凝集剤を用いないため二次廃棄物を発生せず、また分離されたアオコは土壌改良材や有機質資材として使用が可能であると言う。

 この技術は次の2つの意味で新技術と言える。まず、超伝導磁石を使用した高勾配磁気分離システムを利用している事と、凝集剤の使用を極力押さえている事である。超伝導高勾配磁気分離システムでアオコを分離する方法は最近報告されたが、アオコを分離するために大量の磁性粉(マグネタイト)や凝集剤(硫酸バンド)を混入するため、アオコの量以上の凝集剤を必要とし、二次廃棄物の発生が問題となっている。また、大量の凝集剤を使用するため、被分離体を土壌改良材や有機質資材として使用する事が困難であった。今回開発した技術はこれらの問題を解決し、被分離アオコを土壌改良材としても使用できるのが特徴である。また、アオコをリンや窒素の生物担体と考える事で閉鎖水系の浄化に役立てることもねらっている。

 アオコがシード剤と凝集し磁性を持っても、溜め池や湖沼の大量の水を処理するには効率を上げる必要があり、強磁場を必要とする。この強磁場の発生に超伝導磁石を使用し液体ヘリウム無しで長時間、安定に運転できるシステムにしているのも特徴である。また、分離されたアオコは土壌改良剤材として使用されるが、二酸化炭素の固定能力が樹木などの高等植物より高く、同研究会は二酸化炭素の回収法としての可能性も持っていることにも注目している。分離を実施したアオコを含む原水は、CODが70 mg/l 、窒素が308.2 mg/l、SS(Supended Solid:懸濁固形粒子 0.5 〜 1 mm、アオコもこの中に含まれる)が5 mg/lであったが、CODで73%、窒素で23%、SSで80%の除去が可能であった。

 このようなユニークな研究が可能になった背景には、異種の専門家が共同で研究に当たったことがある。磁性体の専門家(大阪府立産業技術研究所・日下忠興氏、筧芳治氏)、無機化学・コロイド科学の専門家(京都工芸繊維大学・中平敦氏、岡山大学・武田真一氏)、生物・環境の専門家(大阪府農林技術センター・形山順二氏、因野要一氏)、さらには超伝導の専門家(大阪大学・西嶋茂宏氏)がこのグループを形成している。このような異種の専門家による討論によりこの画期的な技術が成功したと言える。

 同研究会代表の西嶋助教授によると「今回の開発での注目点はこれまでになされたアオコ除去の試みでは、大量の凝集剤が使用されていたため、廃棄物として回収されるアオコの有効利用に問題が残っていた。本方式では少量の添加シード剤のみで凝集が生じるため、回収量そのものが減り、また、土壌改良剤や有機質資材として活用できることが特徴である。今後は実際のシステムとしての実証試験を行いたい。また、さらに環境ホルモンも除去やその他の水処理への応用を積極的に追及したい。例えば重油の回収が可能であることも既に確認している」と語っている。

(テクノ)


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