SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

8.高速励磁型10 T伝導冷却型超電導マグネットの
開発に成功
(株)神戸製鋼所,ジャパンマグネットテクノロジー(株)


 酸化物電流リードと磁性蓄冷材の開発によって1990年代前半に登場した伝導冷却型超電導マグネットは、年々高磁場化が進められ、現在では15 Tまで発生可能となっている。発生磁場の高磁場化が進む一方で、励磁速度の高速化の開発も行われてきたが、今までは、NbTiとNb3Sn超電導体を用いて製作されたマグネットでは10 Tを発生するのに10分以上かかっていた。励磁速度が速くなれば、超電導体が発生する交流損失が増加し、小型冷凍機でこれを冷却するには、冷凍能力が不足したり局所的な温度上昇が避けられず、励磁速度の点で限りがあった。酸化物超電導体を用いて7 Tを1分程度で発生するコイルもあるが、製造コストが高くなるという問題があった。

 今回、(株)神戸製鋼所とジャパンマグネットテクノロジー(株)は直径100 mmの室温ボアに10 Tをわずか8分で発生する超電導マグネットを開発した(写真)。今回製作されたマグネットはNb3Sn超電導体のみを用いて製作されている。NbTi超電導体の転移温度が9 K程度であるのに対してNb3Snの転移温度は18 K程度と高い。また、使用されている小型冷凍機の冷却能力は温度の上昇とともに増加する。このマグネットはこれらの特性を積極的に利用して設計されている。つまり、Nb3Sn線材のみを用いて設計することで、超電導マグネットの運転温度をNbTi併用型のマグネットに比べて高く設定し、冷凍機の冷凍能力が4 Kで使用する場合の数倍確保できる領域で運転するようになっている。また、使用されたのは一般に流通しているNb3Sn線材であるので、酸化物超電導体に比べ安価で、性能も安定している。さらに、マグネット内部の温度分布をできるだけ均一化するようなコイル配置と冷却構造が開発された。これらにより8分で10 Tを発生することに成功した。

 写真は回転機構がついたモデルであり、ボアの方向を水平と垂直両方に切り替えて励磁が可能である。また、バイポーラの電源を組み合わせたことで、磁場を-10 Tから10 Tまで、連続で設定可能であるという。

 諸元を表に示す。

(Rokko)

写真 

 

           表 超電導磁石 JMTD-10T 100HSの諸元

     寸法   φ830mm×H 1250 mm   貫通ボア直径 100 mm
     中心磁場 10 T          磁場均一度  0.1 % (10 mmDSV)
     定格電流 120 A          励磁速度   10 T / 8 min
     冷却速度 (60 Hz zone) 60 h