SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

7.電流容量最高の20 kA級酸化物超電導電流リード開発
_古河電工・フジクラ_


 古河電工とフジクラは電力貯蔵能力が100 kWhの超電導電力貯蔵システム(SMES)用として、通電容量では世界最高の20 kA級のイットリウム系酸化物超電導体を用いた電流リードを開発した。

 この研究は、通産省資源エネルギー庁委託事業である「超電導電力貯蔵システム要素技術開発調査」として、財団法人国際超電導産業技術研究センターから中部電力が委託を受けているなかの一部を、古河電工とフジクラが受注したもの。

 電力を貯蔵するSMESには、電力の出し入れをするために室温の電源装置と液体ヘリウム温度(−269℃)の超電導コイルをつなぐ電流リードが必要である。これまでの電流リードは、銅リードを冷却して電気抵抗を下げることで通電による熱損失を小さくし、同時に断面積も抑えることで熱伝導による熱侵入も小さくしている。電気抵抗のない超電導材料で電流リードを作製すれば、当然抵抗による熱損失はなくなり、また、電流容量が銅の数千倍以上と高いために、断面積を小さくでき、かつ超電導材料の熱伝導率が低いことによって熱侵入を抑えることができる。したがって大容量の酸化物超電導電流リードを実現できれば、SMESの効率を上げることが期待できる。

 これまでの酸化物超電導電流リードは、製造の比較的容易なビスマス系超電導体を用いた電流リードの開発が先行している。しかしビスマス系超電導体は、導体の断面積あたりの電流容量が低く、また電流が流れるとき発生する磁界で、電流容量が低下するなどの問題があり、大容量電流リードに適用しづらい面があった。今回開発した酸化物超電導電流リードは、すでに中部電力とフジクラが開発したイットリウム系超電導電流リード素子を用い、このイットリウム系電流リード素子24本を並列に集合化し、種々の工夫を加えて大容量化することに成功したものである。多数本の電流リード素子を並列に接続した場合、他の素子を流れる電流により発生する磁場で、大きな電磁力を受け素子が破損したり、また、単純な並列接続では、素子に均等に電流が流れず、電流のアンバランスが生じて大電流が流れなかった。

 今回開発した技術は、イットリウム系酸化物超電導体の製造の最適化を図り、それ自身の強度を上げ、さらに超電導体と電極の間に応力吸収の機構を採用することで電磁力に耐える構造としたことと、それぞれの電流リード素子に流れる電流を等しくするために、超電導体と電極との抵抗を均等化するための電極構造としたことである。

この技術を用いた20 kA級酸化物超電導電流リードを製作して、各種試験を実施した結果、
(1) イットリウム系電流リード素子の集合化で20 kA級の大容量特性が得られた。
(2) 銅製電流リードに比べて冷却に必要とされる電気代を3分の1に抑えられ、低熱損失特性を実現できた。
(3) 変動電流に対しても、優れた耐電圧特性をもつことが確認できた。
(4) 一万ボルトの直流電圧に対しても、優れた耐電圧特性を持つことが確認できた。 これらSMESの電流リードとして必要とされる大容量、低損失、低熱侵入、高速応答性、耐電圧特性をすべて満たすことでき、実用化のめどを得ることができた、としている。
 この試験は、財団法人電力中央研究所赤城試験センターの協力を得て、同センターでおこなったものである。

 今回の設計、組立、試験を担当した古河電工超電導開発部の向山晋一主任研究員は「複数本のイットリウム系電流リード素子を並列化して通電電流を大きくする技術を得たことで、より大容量の電流リードの製造も可能となった。この電流リードはSMESのみならず、核融合、加速器などの超電導応用機器にも適用できるもので、今後広範な普及が期待できると思う」と語っている。

(Beyond)


写真 20 kA級酸化物超電導電流リード装置