SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

5.情報化社会は省エネルギーではない?


 超電導工学研究所の田中昭二所長らは最近の種々の講演で、「情報化社会は省エネルギーではなく、むしろ多消費」になりうる危険性を指摘している。現在の半導体デバイスに依拠する通信システムでは、1回のスイッチングに必要なエネルギーに限界があるため、今後、通信容量が増大するにつれ、それに伴う電力消費が馬鹿にならないと主張するものである。ちなみに、田中所長らは、すでに現状においても、日本最大の電力消費企業が通信サービスを行う NTT 社になっていることや、大学などの購入するスーパーコンピューターの電力が非常に大きくなり、最近のものでは特別な変電所を作らなければ設置できないほどになってきている例を挙げている。

 同氏らはこのために、半導体デバイスに比較して1-3桁消費電力を減らすことが期待される超電導デバイスが、21世紀の比較的早い時期に必須の基幹デバイスにならなければならないと警告している。このような観点においては、本年5月31日付け発行の雑誌 Forbes にPeter Huber氏の興味ある記述が掲載されている。

 同誌によれば、現在の情報通信網では2メガバイトの情報を作成し、送るごとに約1ポンド(450g)の石炭に匹敵するエネルギーを消費している。平均的インターネットユーザーが自分のパソコンを週12時間オンラインの状態にすると、年間電力使用量として1人1000 kWh程度を消費する。米国ではすでに、インターネット利用による直接の電力使用量が米国全体の電力の8 %に達していると同誌は推定し、このままの趨勢でいくと、今後10年のうちに全米電力の半分をインターネットユーザーだけで消費する勘定としている。世界全体でパソコン10億台時代がくると、それだけで全米の電力消費量を必要とする。

 さらに、今後10年の内に半導体集積回路の速度は4倍程度に、集積度は7倍程度になると予想されており、そうなると、一人のインターネットユーザーが扱う情報量そのものが単位時間当たりに数倍以上になることも考えられ、このようなトレンド予測はさらに上方修正を迫られる可能性もある。

 これまで電力消費はほぼ国のGDPと並行して需要が伸びてきていたが、今後は省エネルギーの進行で電力需要の増大は頭打ちになるという考え方がこれまでの主流であった。そして、情報化社会の到来は、物資輸送を減らし、人間の生活様式を省エネルギー型にするとされていた。しかしながら、通信情報量のこのような予想をはるかに越えた増大は、電力消費量の伸びに予想外の新因子を付け加えそうな動向であるといえよう。

(PKK)