SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

3.配電系統型SMESの販売設置計画を発表
_ASC社_


 本誌99年4月号でASC社(米国)が、欧州で初めてマイクロSMES(超伝導エネルギー蓄積装置)をSTEWEAG社(オーストリア)へ販売・納入したニュースを紹介したが、この度、極めて意欲的なD-SMES(商標)=Distributed- Superconducting Magnetic Energy Storage販売設置計画を発表したことが明らかとなった。同社のねらいは、配電系統レベルにおいて電力の高品質と系統安定性を実現するため、配電系統型と呼ばれる"D-SMES"の設置を提案するもの。SMES装置は、送電線網の電圧を連続的に監視し、電圧の瞬間的低下時には即刻、電力を注入補償することにより、大型送電系統網全線にわたって安定性の保証を助けることができる、というのがASC社の主張である。

 D-SMES装置はASC社の現存のSMES製品と同じマグネット技術を組み込んでいる。もちろんパワーエレクトロニクスに異なるものも含まれているが。ASC社はSMES技術の応用を個々の工場から送電線系統へ拡張し、SMESにより送電線網が急速に安定動作状態に復帰するのを可能ならしめ、それによって広範囲の電力脱落事故の防止を望んでいる。また、D-SMES装置は高価な送電設備の投資をせずに系統の送電能力を向上できるかもしれない。

 ASC社のG.Yurek社長は、BT Alex Brown電力会議にて次のように語った。「向こう4ヶ月以内に我々のD-SMESに対する最初の注文を、ある電力会社から受け取るだろうと予想している。これらSMES装置は、典型的には数100キロマイル長の送電線を包含する大規模送電系統網に設置されるので、各注文には送電線網にわたって戦略的に配置される数台のSMES装置が含まれると予想している。電力会社と共同で行なった送電線系統の解析によって、我々のD-SMES案が、電圧安定化問題に対する最も高効率で、高信頼性かつ経済性の高い対策であることが判った。

 現在ASC社は電力品質改善対策ビジネス部門の大幅拡張のため投資を開始している。この拡張には、新しいスタッフ陣と増強された製造設備の借用が含まれている。我々は、産業向け電力の品質問題を解決するため、SMES装置の販売が大きく伸びると予想しており、わが社の事業部門が、今日の変化しつつある電力産業界の環境、即ち送電線系統の安定性を維持するとともに送電能力の増加への要求に応えるべく再編成しつつある」。

 ASC社は、電力業界が毎年数100万ドルを送電電圧の安定化のために支出している事実に基づき、自社製品D-SMESと維持サービスに対する世界的市場規模が、年率5億ドル以上になると推定している。また、新聞発表の中で「世界中の電力産業は、現在前例のない根本的変化を被りつつある。発電市場での競争は激化する一方、送電線敷設に対する制限と、コスト低減への要求はますます厳しくなっている。これらの産業ダイナミックスに反して、電力に対する要求に応えるのが困難な冷たい現実がある。

 つまり、送電線系統の増強が中止あるいは遅延すれば、配電線レベルの電圧不安定化につながる可能性はある。送電系統の枢要点にあるいくつかの老朽変電所が経済的並びに環境上の理由で引退に直面しており、電圧不安定化の影響はより重大になるだろう。

 独立の発電業者は、新しい発電容量を付加するが、それら新発電所はしばしば既存の送電線設備を利用せず、種々の不安定性問題を引き起こしている。過去には、送電線と小変電所などの関連設備を設置するのが普通に受け入れられる解決策であった。しかし、用地権コストのはね上がりと新しい送電線敷設に対する環境的反対運動により、許可の確保が高価、かつ不確実になった。一方、工業専門家によれば送電・配電系統網の信頼性を増加する新しい電力技術がでてくれば電力産業の規制緩和は加速されるだろう。これら新電力技術を採用することにより、競争的電力会社はオープン市場で意味のある差別化の手段を保持できる。SMES技術はこれらの要求を満たす有力手段と考えられよう」としている。

 電力研究所(EPRI)のP.Grant主席研究員は「送電線網中に分布的にSMES装置を設置するというASC社の戦略は、電圧不安定性というよく知られた問題を解決するための有力な対応策である。D-SMES装置は、また分散発電の広範な実施を加速するための鍵となるかもしれない。分散発電が進展すれば送電系統不安定性の源となり得るからである。しかし、電力会社にD-SMESを販売する際の問題点は、電力の品質問題は本質的に複雑であり、単一の解決策は存在しないということである。ASC社の設計作業を軽減できる電力会社技術者からの多くの協力なしには、自社内で各サイトごとに高価な顧客設計が必要となろう」とコメントした。

 さらにGrant氏は次のように付け加えた。「近年、米国には重大な電力の品質問題は存在しない。我が国は電力品質を保持しているが、他の国では同様ではない。問題はASC社が米国で持続的な商売を見出すことができるか否かである。一方、規制緩和が一段落し、産業界中の規制部分が現状より高い品質を要望するようになった時には、D-SMES型解決策に対する大きなニーズが期待できるだろう。SMES装置は、系統安定性問題を解決する優れた手段になり得る。エネルギー蓄積と電力エレクトロニクスとによって、すべてを実用的に制御できるだろう。それは、確かに興味深く証明済みの接近法である。我々は多年にわたってこの概念に基づくプロジェクトを開始したり、中止したりした。しかし、電力産業界はSMES装置を一斉に購入するようにはならなかった。それは強力な技術であるが、使用されていない。恐らく、電力産業界は通常より安価な代替案をみつけることができるからであろう。そのようなことを続けることができるかどうか、それは巨大な疑問符である」

 これに対して電力中央研究所狛江研究所・秋田調電気物理部部長は次のようにコメントしている。
「米国では電気事業の自由化が進行中で、電力会社では新規の設備投資を控えており、送電設備も例外ではない。このため、これまでであれば当然送電線を新しく建設して電力を送るようなケ−スでも、多少の無理をしても既設の送電線の送電電力を増加させて対処することも起こっていると聞く。
 このような状況の中で、ただでさえ送電線が長いため、落雷および負荷の急変などによる電圧変動がおきやすい米国の送電系統において、送電電圧を所定の範囲内に納めることが難しくなってきている。今回のASC社のD-SMESはまさにこのような状況に対処するための技術提案である。D-SMESとは言っても基本的にはこれまで生産されてきたマイクロSMESを多数台、電力系統上の弱点に設置するものである。従って可搬であるため電力系統の弱点を解消する新規の送電線が建設されれば、他の弱点に移設して使用することも可能である。
 米国における5月10日付のニュースリリースによれば、Wisconsin Public Service Corporation(WPS)が2000年3月までに周長200マイルに及ぶ同社の北部系統に6台のSMEを設置することとなった。さらにWPSの負担を軽くするため、2002年以降にはASC社が不要になったSMESを買い戻す特約もつけられている。このような導入形態であれば、米国および電力系統が強固ではない中南米諸国への更なるD-SMESの導入が期待できる。我国の電気事業もコストを削減しつつ、これまでの高い電力供給信頼度を維持することが要請されており、D-SMESそのものではないにしろ分散配置のSMESを利用した電力系統制御は大きな検討課題となろう」

(こゆるぎ)