SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

19.金属系交流用超電導線材の
交流損失測定装置の開発現状
_鹿児島大学_


 鹿児島大学工学部電気電子工学科の住吉文夫教授・川畑秋馬助教授のグループは、外部磁界印加時における商用周波交流用超電導線材の交流損失を高感度で測定・評価できる装置の開発に成功した。今回開発された装置の測定感度は、最新の交流用超電導線材の0.5 T、60 Hzでの損失値である数100 J/m3に対し、さらに2桁程度低い損失値まで測定できるレベルを持つ。その測定方法はピックアップコイル法による損失測定法を改良したものであり、交流用超電導機器の実機に必要とされるさらに低損失化された線材の損失測定にも十分対応できるものと見られている。

 通常ピックアップコイル法においては、図1(a)に示すように、同軸状に配置された一対のピックアップコイルとキャンセルコイルが用いられ、ピックアップコイルの信号電圧から測定すべきサンプルの微小磁化信号のみを抽出するために、キャンセルコイルの信号電圧を用いて余分な空間磁界の信号電圧を打ち消す「キャンセリング」という手法が取られている。しかし、測定に使用する差動増幅器の同相電圧除去比 (CMRR)など種々の要因により完全にはキャンセルできないため、これが見かけの損失(キャンセル残り)として測定誤差となり装置の測定感度を決めることになる。また、交流用超電導線材の磁化信号電圧はピックアップコイルの全信号電圧の10-5倍程度またはそれ以下と非常に小さいので、その測定は一般に困難であり、加えて交流機器の実用化には線材のより一層の低損失化が必要とされているため、その測定はますます困難となっていくことが予想されていた。

 今回の装置では、このキャンセルしきれなかったキャンセル残りを複数の「キャンセリング」を用いてハード的にキャンセルするという方式を採用することで、従来の方法と比較してその測定誤差を2桁程度低減させることを可能にした。具体的には、図1(b)のように中心軸上対称な位置に配置された2組のピックアップコイルとキャンセルコイルのコイル対を用いてそれぞれで「キャンセリング」を行った後、図2の測定回路図のようにこれらの出力を用いてもう一度「キャンセリング」を行い、キャンセル残りをさらにハード的にキャンセルしようとするものである。川畑助教授によれば、2組のコイル対の出力を合わせ込むことにより、さらに測定感度を現状より1桁程度上げることも可能であるという。交流用超電導機器の実機に要求される低損失線材の開発のために、この損失測定装置の活用が期待される。

(諒璃)