パルス管冷凍機は15年ほど前から本格的な研究開発が欧米、日本、中国などでスタートし、特にここ10年間の冷凍能力の向上(効率、到達温度)には著しいものがある。この冷凍機形式としては圧縮部と流体の制御機構それぞれの組み合わせで10種類以上のバリエーションがあるが、共通な特徴はいずれも低温部に可動部を持たないことである。その結果、特に、超低振動性、高信頼性がパルス管冷凍機には期待され、GM冷凍機ではその振動が故に冷却対象になり得なかった超電導エレクトロニクス機器や高分解能分析機器などへの適用が考えられている。最近の研究開発の方向は冷凍出力、効率向上はもとより、小型化、極低温化など多岐にわたっており、この4 K台をねらった到達温度の低温化開発としては、我国でも日本大学が3段で、アイシン精機が2段のパルス管冷凍機ですでに4 K台以下を実験的には得ている。また、海外ではドイツ、オランダ、中国などでも精力的な研究が続けられているが、恐らく商品としての4 Kパルス管冷凍機はこのクライオメック社のものが初めてであろう。
一方、高温超電導の実用温度域である50 K以上でのパルス管冷凍機の実用化・商品化は我国が世界的にも一歩リードしており、岩谷産業、アイシン精機がいち早く世に製品を出し、その後も国内の冷凍機メーカは商品化への開発活動を積極的に進めている。商品化パルス管冷凍機の現状能力をアイシン精機の製品例で見てみると、同社は圧縮部として二つの形式のパルス管冷凍機をそろえており、一つは従来のGM冷凍機用圧縮機を用いたもの、もう一つが、スターリング冷凍機の圧縮部タイプで往復動ピストンによる容積変化を直接用いるものである。それぞれ、GM型(写真1)およびスターリング型(写真2)と呼ばれており、前者は圧縮部と冷凍部の分離が容易で冷凍部のより低振動を強調した利用を、後者はよりコンパクトでさらにピストンのリニア駆動と板バネ支持による長寿命化で民生機器への利用に適するとしている。同社の製品化担当(E&E事業部)の奥村暢朗氏によるとこの二形式の冷凍機を冷却対象の特徴に応じて使い分けることで、ほとんどの高温超電導のエレクトロニクス応用に対応可能とのことである。これらの基本的仕様は表1に掲げてある。
パルス管冷凍機の出現で小型冷凍機の適用範囲が飛躍的に広がろうとしている。これは超電導技術、とりわけ超電導エレクトロニクス技術の実用化には冷却手段の持つ低振動・高信頼性が不可欠だからである。実用化に向けた見通しについてアイシン精機第二開発部の井上龍夫氏は「今後の解決すべき課題としては、冷凍機内のガスの共振も含めた機械振動低減、冷凍温度の制御性・安定性向上、重力に対する方向依存性解消、真空封止技術などがあるものの、冷凍機の内部の現象理解も含めて、技術的には日々急速に進展しており、この冷凍機の持っている素性から見ても、パルス管冷凍機が将来の小型冷凍機の根幹をなすことは間違いない」としている。
(パルスの達人)
写真2 ST型パルス管冷凍機
表1 パルス管冷凍機諸元(アイシン精機製)
項目 GM型(PR111) ST型(SPR-05)
冷凍出力@77K 5 W 7 W
到達温度 55K 50 K
77 Kまでの冷却時間 15分 12分
重量 35.5 kg 18 kg
消費電力 800W/100V 300W/100V
放熱方法 空冷 空冷