SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

17.非冷却赤外センサ開発 _MSI._


 Midwest Superconductivity Inc. (MSI)はHTS被覆線材の開発を中断し、YBCOを用いた非冷却センサ技術の独占的なライセンス供与を受け、低コストの非冷却型の赤外センサの開発を行うと発表した。

 MSIの社長兼CEOのJonathan Wilson氏によれば、これまでのMSIでのYBCOに関する技術の展開により新しいプロセスを開発中で、これにより劇的なコスト削減が可能になるという。非冷却赤外センサの市場は急速に広がっており、MSIは低価格センサ開発に注力する。YBCOは広い動作温度領域で高感度を示し、低価格で、冷却が不必要であるというこれまでの赤外センサにない特徴を有するという。

 赤外センサとして良く知られるHgCdTeは高感度であるが製造が難しいことと動作に冷却が必要になるため高価格になる。一方YBCO検出器は製造に高温プロセスを必要としないため、マイクロマシンニング技術、CMOS技術とも整合性が高い。現在の赤外センサの市場は、高価格であることと冷却が必要で取り扱いが面倒ななため軍関係に限られているが、非冷却センサにより低価格で簡便なシステムを構築可能である。最近非冷却センサの分野で商品化されたVOx検出器には歩留りの問題があり代替の登場が期待されていた。

 Frost & Sullivan社の1998年の調査によればイメージングシステムの市場規模は、家庭、ビルのセキュリティと環境監視応用の需要を考慮して、16億ドル@1998年から50億ドル@2002年へ増加すると予想されている。

 三菱電機先端技術研究所の高見哲也研究員は「低温成膜YBCOのボロメータへの適用はYBCOの超電導以外の応用として期待できる。しかしMSIが主張しているように読み出し回路との整合性の点に関しては成膜温度の面では整合してもたとえばコンタクトの問題、インピーダンス整合の問題が予想され、これらの点は低コスト化とともに今後の課題として考えられる」とコメントしている。

 表に赤外線検出技術の比較を示す。

(展望台)

             赤外線検出技術の比較

検出器材料   YBCO   アルモファスSi  VOx      HgCdTe      BST

検出原理    ボロメータ  ボロメータ   ボロメータ    光起電力効果   焦電効果

Si-CMOSとの   Good   Excellent  Fair     Poor       Poor
プロセス整合

動作温度    20℃   20℃    20℃     -200℃      20℃

比検出感度   2x109   1x108    1x109     5x1010      1x108
(cm-Hz1/2/W)

雑音(nV/Hz1/2) 100    5000    50      1000       100

問題点         雑音大感度低 製造の困難性 製造の困難性   Siプロセスとの
                          冷却コスト大   整合性に難

                      (元表Midwest Superconductivity Incより)