SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

14.酸化物超伝導体接合の特性ばらつき低減の報告相次ぐ


 日立製作所基礎研究所は、Y-Ba-Cu-O系超伝導体接合の特性ばらつきが200個の接合列で1σ=10 %になったと報告した。これは本誌のvol.7号外 (1998.10)にて報告したNECの結果(100個の接合で1σ= 8 %)に続く報告で、酸化物超伝導体においても接合特性の制御に明るい見通しが出てきた。

 上記結果は4月16日に行われた(財)国際超電導産業技術研究開発センタ−主催の超電導研究成果報告会で,通産省ニュ−サンシャインプロジェクト「超電導応用基盤技術の研究開発」の平成10年度の成果報告として報告された。作製した接合は常伝導層を意図的に挿入しないramp-edge型、いわゆるinterface engineered型で、作製プロセスはNECのと基本的に同じある。幅5 mmの接合を200個、直列に接続したもので、低温で電流−電圧特性にヒステリシスがあることを利用して、個々の接合の臨界電流値を測定した。今回作製した接合の構造は、基板にSrTiO3、層間絶縁膜は酸化セリウム(CeO2)を用いている点がNECの構造と違っている。

 接合は超伝導積層構造作製の研究の一環として作られた。再現性の高いコンタクトや接合を作るには、上下超伝導電極の界面は平滑で、かつ清浄であることが最初に求められる。そこでCeO2/YBCOの2層膜の平坦なramp-edgeを作るためのイオンビームエッチングのための加工条件を調べ、酸素の添加の有用性を明らかにした。さらに上部超伝導電極膜を成膜する時に生じるramp-edge面の荒れは、上部超伝導電極膜の作製温度、雰囲気をYBCOが分解しない条件に選ぶことで防止した。これらは今春の応用物理学会で担当している五月女氏により、コンタクトの作製条件として発表されている。

 今回、コンタクトの作製条件よりも成膜温度を下げることで接合を作製した。これはramp-edge表面の損傷層の影響を残し、接合のバリア層として働くようにしたものである。何がバリア層になっているかは未だ明らかではないが、今回、層間絶縁膜にCeO2を用いても特性の揃った接合ができていることから、ramp-edge加工時の損傷層がベ−スになっていることは明らかであろう。200個の接合を22個ごとの列で測定すると、多くの列が8%台であるのに対して、中に特性が大きくずれた列があり、全体で10%になっている。500 mm角の狭い領域中でも特性のずれた部分があり、この原因も含めた材料学的評価が必要である。

 Nb系超伝導回路を例にすれば、比較的小規模回路でも動作マージンを大きくするには接合電流のばらつきは3σで5%以下にする必要がある。酸化物超伝導体では、この目標にはまだまだで、臨界電流値の絶対値の最適化も必要であるが、違った研究機関で同じ結果が得られたことは、接合特性制御への見通しが明るくなったと考えられる。平成10年度から始まったプロジェクトの目標は平成14年度に1000接合、1σ=8%であったが、プロジェクトリ−ダの田中昭二超電導工学研究所所長によれば、10000接合、5%を目標にして、研究を加速するとのことである。

(日の出前)