NdやSm系123におけるピーク効果は、第3研究部の村上雅人氏らのグループが、以前に溶融成長バルク結晶を育成する際に酸素分圧を0.1 %程度まで下げ、NdのBaサイトへの置換を抑制した場合に生じることを発見したものであるが、今回の結果は、酸素分圧をさらに0.04 %程度まで下げたことにより得られた。
種々の温度、磁界における電流-電圧曲線においても転移温度において急激な線形-非線形曲線変化が見い出された。また、熱力学的な量である磁化の温度依存性においても従来観測されているような跳びが観測されたので、これが1次相転移に対応していることは間違いないという。
興味あることは、これまでY123系ではこのような融解転移が、双晶境界のないクリーンな単結晶においてのみ観測されたのに対して、Nd系では、双晶境界が存在する系でも見い出されたことである。双晶境界は一般に磁束線を捕捉し、磁束格子の融解相転移の発現を妨げる働きをするが、Nd系において双晶境界の存在にもかかわらず相転移が見えたことは、この系の双晶境界がピン止めには余り効かないことを意味する。Y系とNd系の間でなぜこのような違いが生じるかはまだ明らかではないが、双晶境界近傍の酸素欠損構造の違いが一因として考えられるという。
また、液体窒素温度のような比較的高温におけるピーク効果の原因としては、次の2つが有力である。原子半径の大きいNdがBaサイトを置換しやすいために、低いTcをもつNd-rich相が正規のNdBa2Cu3Oy 組成をもつ母相に分散しピン止め中心として働く、いわゆるNd/Ba置換説と、微量な酸素欠損が一方向に整列することによりクラスターを形成し、ピン止め中心となる酸素欠損秩序説である。Nd系123等の合成では、一般に酸素分圧を下げるほどNd/Ba置換量が減少することが知られており、ピーク効果も同様に減少することを示す図1の結果は、Nd/Ba置換説を支持する有力な証拠であるという。ピーク効果が系統的に変化する試料が得られたので、その微細構造観察などの手段により、ピン止め機構が直接的に解明されることが期待される。(東遼太)