SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 3, June. 1999.

10.新磁気システム用マグネット開発
_オックスフォード・インストゥルメンツ社_


 Superconductor Week Vol.13, No.7(1999年4月14日)の記事によればOxford Instruments社Research Instrumentsは、新磁気手術システムに使用する超電導電磁石の製作に関し、Streotaxis社(St.Louis, Missouri)と契約した。このシステムを使えば、通常の外科的な方法ではなく磁気的な方法で、外科医が頭や体内で器具を誘導できるという(詳細はSuperconductor Week、Vol.13、No.2参照)。

 この手術システムはStreotaxis社が開発・研究中のもので、脳腫瘍の生検を行ったり、放射線診断装置を使用した脳神経系及び心臓血管系手術を行う場合、従来の方法に比べ、人体への影響が少なく、かつ、より有効な方法になる可能性がある。

 現在開発中のこの新システムでは、患者の頭の周囲に配置した3個の超電導電磁石が発生する磁界の高速制御により、細くかつフレキシブルなガイドワイヤーまたはカテーテルに取り付けた磁気チップを、頭の中で誘導できる。頭の2断面を表示するリアルタイムX線画像を見ながら、外科医はダイレクトかつビジュアルに磁気チップをコントロールできる。磁気チップの位置精度は1 mm以内であり、重要部位を避けるため曲線状に移動可能である。位置が決まると、磁気チップを引き抜き、生検のためのフレキシブルな器具を挿入する。

 電磁石は、患者に対し互いに直交する3個の5 T、直径が40 cmの超電導コイルから成る。高速の磁界変化(速いスイープレート)が必要なため、高電圧電源と高性能超電導線が必要である。電磁石は頻繁に速い磁界サイクル中で高応力を受けるため、電磁石の構成材と構造材は、応力が平均的に分散しコイルの変形を抑える様に設計する必要がある。

 構造材には強さと堅さが必要であるが、患者のアクセス性のみならずX線画像装置へのアクセス性を考慮すると、構造材が利用可能な空間が制限される。更に、システムには10年間の動作保証が必要である。

 磁気手術システムの研究は当初脳神経外科への適用を狙ったものであったが、この技術は心臓血管系や脳血管系へも適用できる大きな可能性を秘めているかも知れない。

 この記事に対し、三菱電機(株)先端技術総合研究所 電機システム技術部の依田潔、松田哲也両博士は次のようなコメントを寄せている。
 (1)この方法はかなり以前(70〜80年代)から、"磁気カテーテル"として知られているものと基本的なアイデアは同じであるが、3個の超電導コイルを 使うことで磁気チップの曲線的な誘導を可能とするとともに、高い磁場勾配を利用する等、より患者にとってメリットのある方法となっている。
(2)患者の治癒率に加え、放射線治療や一般の手術に対し、患者一人当りの治療コストがどの程度になるか、5Tの磁界を高速に制御した場合の人体への影響は問題ないか等が普及へのポイントになると思う。普及すれば超電導電磁石の新たな市場が期待される。

(南北)