SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 2, Apr. 1999.

5.サーモアクースティック冷凍機:小型冷凍機に革新
_日大理工学部松原洋一氏談_


 高温超伝導、低温超伝導ともにその実用化には支援技術としての冷凍機などの技術進歩が大きな福音となる。ちょうど高温超伝導発見期に登場した磁性蓄熱剤を用いた東芝や住友重機の4 K小型GM冷凍機が高温超伝導パワーリードの開発に伴って、液体ヘリウムレスのいわゆるドライマグネット時代を開いたことは記憶に新しい。今回の応用物理学会では複数の展示ブースで実用化されたパルスチューブ冷凍機の展示が行われ、低温関係者の注目を引いた。パルス冷凍機は顧客のニーズに応じた形状設計を行えるという。

 3月27日の応用物理学会シンポジウムでは日大理工学部原子力研究所の松原洋一教授が冷凍機開発の現状を総括したが、この中で、パルスチューブ冷凍機は、これまでの冷凍機と異なり低温部に可動部がない、すなわち、メンテナンスの観点から本質的に優れた冷凍機であることを述べた。パルスチューブ冷凍機は原理的には早くから知られていたが、1990年頃から急に技術的な進歩が起こり、実用化に至ったもの。表面積の非常に大きい固体(蓄冷器)とガス空間(パルスチューブ)との接触界面でちょうどペルチエ効果のように熱吸収が起こることが冷凍の原理という。その熱吸収効果を向上させるために、パルスチューブ内での圧力波の位相差制御が開発のポイントで種々の工夫がなされてきたという。パルスチューブ冷凍機は30 K程度までは最も単純な構造の1段で冷凍できる能力を有する。

 同氏はさらに、ごく最近発案されたサーモアクースティック冷凍機に触れた。この冷凍機では、高温部、低温部ともにまったく可動部がない。圧力波発生を強い熱勾配によって起こさせていることが秘密。したがって、この技術が結実すれば、冷凍機にとって長年の夢であった「メンテナンスフリー」を究極的に実現できる可能性があると同氏は見る。「本サーモアクースティック冷凍機は130 Kで2 KWという大きな冷凍出力を既に実証しており、ここ2−3年で実用化に至るかもしれない」と同氏は述べた。松原教授はさらに「残念なことにはこのようなインパクトのある冷凍機の技術開発をしようとする日本の研究者がほとんどいない。しかしながら、具体的な応用分野が少しでも見え初めてくれば、その要求に答える形での開発研究が進んでくるものと信じている」とコメントした。

 このような小型冷凍機の発展は今後に期待される高温超伝導の広範な実用化にとっては大変に大きな意義を持つように思われる。例えば、上記ドライ超伝導磁石はGM冷凍機の一種によって冷凍されるが、その音に悩まされる人も少なくはない。静かでエネルギー効率の高い小型冷凍機の出現は、非常にタイムリーな技術革新になることが予想される。それにしても、この不況下で我国の研究開発体制に萎縮現象が見られるのは困った事だ。どこかに、このような技術展開を支援するグループが現れて欲しいと考えるのは筆者だけであろうか。

(Iiyama)