SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 2, Apr. 1999.

3.100 mクラスPAIRプロセスBi-2212テープの作製に成功
_昭和電線電纜、金属材料技術研究所_


 昭和電線電纜と金属材料技術研究所は、昨年開発したPAIR(Pre-Annealing & Intermediate Rolling)プロセスを用いて100 mクラスのBi-2212/Ag多層テープの作製に成功したと公表した。

 本テープは、銀基板上にBi-2212厚膜を塗布して積層したものを銀合金テープでラッピングして作製したものである。これを予備焼成してバインダー等の有機物を分解させ、中間ロールをした後、酸素中で部分溶融−徐冷処理を施す。PAIRによりプリカーサー膜の密度が向上するため、部分溶融、凝固が均一におこり不純物相の微細化と低減、超電導粒の高配向性が実現さている。その結果、短尺で焼成したもので4.2 K、10 T中でのJcが世界最高レベルの500,000 A/cm2まで達したことを、昨年6月本誌Vol.7, No.3 で紹介した。この線材は、Jcが従来の線材の約2倍となったことから、高磁界マグネットのインサートコイル、冷凍機冷却マグネット用の線材として注目され、長尺化が期待されてきた。

 この線材の長尺化についての現状は、昨年12月Bostonで行われたMRS Fall Meetingにおいて報告されたもので、100 m長で熱処理を行った線材(5 mmW×0.18 mmt, 銀比4)の特性として4.2 K、自己磁界中Jcで6.9×105 A/cm2(Icは1100 A)、10 T中でのJcは3.5×105A/cm2が得られている。まだ短尺焼成の最高Jcには達していないもののこの値は、このクラスの線材長では高いものである。100 m長での線材のIcのばらつきに関しては、77 K中で測定した値が公表されており、±7 %と全長にわたってかなり均一な特性となっている。

 長尺化にあたって最も重要な問題となったのは、予備焼成におけるカーボンの除去であり、この除去プロセスを適正化することが、長尺線材開発の大きなポイントであったという。予備焼成後のカーボン分が線材全体の0.01 wt%を超えると、超電導層中の不純物相が極端に増加し、特性の低下をきたした。現在はこのレベルよりかなり低い値にカーボン量を押さえることが可能になっており、これによって長尺線材のJcが大幅に向上した。この線材の最外層は銀合金テープを折りたたみ、端部を突き合わせたものであり、予備焼成時には突き合わせ部はスリットが開いているような状態になっている。

 バインダー等の有機分は、予備焼成の際に分解し、このスリットを通して外部に放出されると考えられ、この構造が多量の有機物を含む本作製プロセスにおいても残留カーボン量を減らし、高い特性が得られるひとつの要因となっている。

 このPAIRプロセスで作製したBi-2212/Ag多層線材は、0.6 %の耐曲げひずみ特性を持ち、リアクト&ワインドでの巻き線が可能である。このことは、絶縁の厚さの低減を容易にし、コイルデザインの幅を広げるもので、今後この線材を応用したアプリケーションの開発に期待がもたれる。

 昭和電線電纜で開発を担当している長谷川隆代主査は「PAIRプロセスの発表から、1年あまりでやっと巻き線が可能な線材長の作製が可能になった。今後は、さらに特性を短尺と同等にするための熱処理方法、特性のばらつきの要因の把握、さらに長尺化を目指した線材のR&Dを継続するとともに、この線材を使ったコイルの作製、その特性把握等もおこなって行きたい。」とコメントしている。

(TH)


図 100m長線材概観