SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 2, Apr. 1999.

2.超伝導単一磁束量子論理回路
30 GHzでの動作実証に成功
_名古屋大学_


 名古屋大学の早川尚夫教授・藤巻朗助教授のグループはジョセフソン接合(JJ)集積回路技術を用い、単一磁束量子(SFQ)回路のシフトレジスタを開発、これまで例のないクロック周波数30 GHzでの動作実証に成功した。また同時に1/2分周回路の28 GHz動作にも成功しており、超伝導ディジタル回路はさらなる高速性を目指し本格的にSFQ回路の時代へと突入した。

 SFQ回路は磁束の最小単位である磁束量子のあるなしで情報を処理する。ジョセフソン接合のスイッチングの高速性は言うまでもないが、SFQの粒子的性質からデータを次から次へと受け入れる能力、すなわちスループット特性に本質的に優れている。また、LSIの遅延の大半を占めるようになってきた配線の充放電といった現象から解放されることも高速性に大きく貢献しており、SFQ回路は半導体では実現困難な100 GHzクラスの超高速演算が期待されている。

 このSFQ回路自身は以前から提案されてはいたが、インダクタンスなどの回路パラメータの変動に対し動作が敏感であったため大規模な回路のデモンストレーションはこれまで困難であった。今回の名古屋大学の回路作製は科技庁プロジェクト(科学技術振興調整費総合研究「単一磁束量子を担体とする極限情報処理機能の研究」)の一環として行われたもので、高臨界電流密度にもかかわらず優れた均一性をもつNEC標準プロセスを利用できたことが成功の大きな要因となっているという。また、名大のグループではNEC標準プロセスに適した回路パラメータを独自の最適化プログラムによって抽出、ばらつきに強い回路設計を行ったことが安定動作を導いたものと考えている。

 SFQ回路の出力は通常0.2 mV程度の電圧しか出ないため、GHz以上の速度で波形を直接観測することは困難である。そこで、高速動作した結果を一旦シフトレジスタに貯え、その内容を低速で読み出すオンチップテストの手法を採用した。(図参照)

 同一チップ上に搭載したクロック回路により被観測対象のシフトレジスタ回路及び1/2分周回路を動作させたところ8-30 GHz程度の観測可能な周波数範囲すべてにわたって正常動作が確認された。動作マージンは±35 %と大きく、かつ高周波においてもその低下が見られなかったことから、回路は30 GHz以上でも安定に動作するものと同グループでは見ている。高速動作に加え大きなマージンが得られた意味は大きく、藤巻助教授は「これによって計測器や通信分野で求められているさらに複雑なディジタル信号処理回路の開発に目途がついた」とコメントしている。

(大奈)


図 試作したSFQ回路の顕微鏡像