SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 2, Apr. 1999.

15.磁気力利用に関する最近の展開


 磁場の新しい応用展開への可能性が期待される新磁気科学分野において、既に確立した磁場影響の機構の一つに磁気力の作用が知られている。物質が不均一な磁場中に置かれた際に、その磁性に応じて働く力を磁気力というが、磁性の小さな反磁性・常磁性の物質であっても、強く急峻な勾配をもつ磁場を印加すれば、重力と同程度の大きさにまで達する。これを利用することで、重力の方向や大きさをコントロールすることも可能となってきている。また、分類の手法にもよるが、ローレンツ力も一種の磁気力として扱われる場合もあるようである。

 このような磁気力の新しい利用に関する国際シンポジウム(International Symposium on New Aspects of the Use of Magnetic Force)が3月8日につくば工業技術院において開催された。本シンポジウムは、生命工学工業技術研究所分子システム研究室長の安宅光雄氏を代表者とするJST戦略的基礎研究「磁気力を利用した仮想的可変重力場におけるタンパク質結晶成長」が主催するもので、昨年のInternational Symposium on Specially Configured Magnetic Fields and Their Application to Structural Biologyにつづき、シリーズ2回目となる。今年は海外から3名の招待講演者を迎え、合計9件の講演が行なわれた。フランス・グルノーブルCNRSのE. Beaugnon博士は、初めて水の磁気浮上を行なった人物としても知られているが、浮上環境のエネルギー解析のほか、溶融凝固プロセスにおける物質の磁化率の温度変化に関する話題や、粘性液体中でのカーボンファイバー配向の解析について紹介した。アメリカ・タラハッセNHMFLのJ. Brooks教授はNHMFLでの磁気浮上に関する話題を提供したほか、宇宙実験を行なっているグループと共同で取り組み始めた植物のストレスに対する浮上状態あるいは磁場の影響の評価、タンパク質結晶成長に関する取り組みについて紹介した。イギリス・サザンプトン大学のJ. H. P. Watson教授は、超伝導磁気分離の権威として知られる人物で、超伝導磁気分離の工業的利用などについて詳細に紹介した。日本からは磁気浮上や磁場中における結晶成長、材料プロセス、液体プロセス、あるいはマグネット開発に関する話題が各講演者から提供された。多くの講演において写真やビデオが多用され、この手のシンポジウムとしては珍しいという印象であった。磁気浮上は今回紹介されたCNRS、 NHMFL、東北大、東大(磁気アルキメデス浮上)のほか、オランダNijmegenでも行なわれており、ブームになりつつある感もあるが、強力磁石を用いての磁気浮上達成には既にニュース性はなく、その状態をどのように利用するかが今後の焦点となる。一聴講者から見れば、今のところ研究が始まったばかりで、それぞれの取り組みに明確な差異は見られないという印象だった。磁気アルキメデス浮上は10 T程度の超伝導磁石でも磁気浮上が実現するということであるので、今後、大きなマグネットを有しない研究機関からも、面白いアイディアが提示されることを期待したい。また、磁気力利用の普及には、マグネットの発達が欠かせない。今回のシンポジウムでは、磁気力が均一に作用する空間を有するマグネット開発に関して金材研から紹介があった。物質に磁気力が均一に作用しなければ真の意味での重力制御はできないので、このような磁石の開発はたいへん興味深い取り組みといえるのではないか。今後、磁場利用が進めば磁場空間に対するニーズがユーザーサイドから出てくることが予想されるので、磁石技術の発達には期待したい。同時に、金材研以外の研究機関による取り組みは無いのだろうかとも感じた。

 全体として、非常に興味深いシンポジウムであったと感じる。今後、どのような磁気力あるいは磁場の利用法があるのか、現在の範囲にとどまらず、多方面から検討され、更なる発展がみられることを期待したい。

(豆子朗)