SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 2, 1999.

1.超強磁場超伝導磁石・磁気分離用酸化物磁石の
開発状況明らかに
―科技庁マルチコアプロジェクト―


 去る3月29日に行われた応用物理学会超伝導シンポジウムにおいて金属材料技術研究所和田仁強磁場ステーション長はその講演の中で科学技術庁がマルチコアプロジェクトの中で開発を進めている1 GHzプロトンNMR用23.5 T低温超伝導・高温超伝導コイル混成磁石、および、磁気分離用大型高温超伝導磁石の開発状況に言及した。

 プロジェクトでの最終目標として設定されている両磁石の諸元は表のようであるが、前者のNMR用磁石は、すでに、内層磁石としてのプロトタイプ高温超伝導パンケーキコイルが試作され(巻線内径64 mm、巻線外径145 mm、巻線高さ223 mmで、巻線高さ以外は最終目標コイルの形状に近い)、18 Tの磁場を与える外側の低温超伝導コイルにブースターコイルとして挿入されて性能評価が行われた。このコイルは日立製作所日立研・日立電線と共同で昨年作られたもので、18 Tのバックアップ磁場中で3 Tを発生して、内部に21 Tの磁場を得ることができた。

 ただし、NMR磁石として必要と考えられる永久電流モード運転に関しては、磁束クリープが大きいために、現在、それを減じようとすると、磁場増強への寄与は0.2 T程度に止まるという。高温超伝導線の接合については、既に、NMRコイルとして要求される10−11 Wレベルのロスを達成しているが、導体のn値(臨界電流に達する電流を流した時にどれだけ急に抵抗が生じるかの指標)が現在はまだ10程度であるためと考えている。例えばn値が13の場合、0.01 ppm/hの磁場安定度を満足するには、2.4 Tの磁場をドリブンモードで発生するための約4倍の臨界電流密度が必要になる。このためn値は高ければ高い方が望ましい。すでにトップデータとしてはn値が23の線材も得られている。

 和田氏はその実現性を問う質問に対して、プロトンNMR用として十分な磁場安定性を得られるかどうかには疑問があるが、23.5 Tの磁場強度目標は目標年度の2001年までに達成できるであろうとする感触を述べた。最終磁石コイルは、酸化物線材60 kg、Nb3Sn線材1350 kg、Nb-Ti線材3460 kgを使う予定。

 一方、磁気分離用磁石に関しては、口径が大きいために、フープ磁気力に対する対策が最大の懸案事項であることを述べ、また、運転中の熱的暴走が生じないように熱発生レベルを抑えること、さらに、磁気分離を行う際に必要な高い繰り返し励減磁速度を確保することが課題であるとした。昨年度中に巻線内径79 mm、巻線外径129 mm、巻線高さ130 mmのテストコイル(住友電工と共同で作製したもの)を用いて、種々の温度での熱暴走特性試験、高速励磁試験などを行った。30 Kにおいて、最大運転電流密度は86万A/cm2(電流230 A)、発生磁場1 Tを得た。20 Kにおける高速の繰り返し励磁試験では、運転電流250 Aで2 T/minの励磁速度を確認することができた。最終的なシステムに導入するマグネットの作製を開始し、2000年度中に完成の見込みという。

 NMRプロジェクトに携わる木吉司ユニットリーダーはNMR磁石開発について「強磁場の溶液NMR磁石に対する期待は大きく世界各国で開発が進められているが、1 GHz級のNMRの実現は既存の超伝導線材では不可能と考えざるを得ない。NMR磁石では第一に磁場強度、第二に磁場安定度が重要であるが、酸化物は第一の条件についてクリアできる見通しを得た。今後は磁場安定度を向上する努力を行っていきたい。」と語っている。また、磁気分離用磁石開発に携わる熊倉浩明サブグループリーダーは「小型マグネットを用いて種々の励磁試験を行ったが、冷凍機冷却ビスマス系マグネットが磁気分離マグネットとして大いに期待できることがわかった。現在プロトタイプマグネットを製作中であるが、今年度中に磁気分離のデモンストレーションが出来ると思う。ただし磁気分離マグネットとしての実用化のためには、マグネットの大型化とともにコストの低減が是非とも必要であり、このための高Jc化が次なるステップの課題になろう」とコメントしている。多くの苦労はあったが、着々と二つの方向の本命と目されている両高温超伝導磁石開発が進んでいるように思われる。

表 開発する酸化物超伝導マグネットの諸元

           1GHz級NMRマグネット

         内層マグネット      磁気分離マグネット

室温ボア(mm)     54            200
巻線内径(mm)     75            240
巻線外径(mm)     130            310
巻線高さ(mm)     600            350
発生磁場(T)     2.4             2
バックアップ磁場(T) 21.1             0
運転温度(K)     1.8             20
運転電流(A)     251            180
特徴     磁場の均一度・安定度が重要    高速励消磁

(SSC)