SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 1, Feb. 1999.


8. 1テスラ・1000A級交流超電導コイル開発に成功
_電総研・フジクラ・新潟大_


 電総研エネルギー部(海保勝之、新井和昭、山口浩)、フジクラ基盤材料研究所(斎藤隆、定方伸行、富士広)、新潟大学自然科学研究科(山口貢)の研究グループは1288 A(peak)−1.396 T(peak)に達するNbTi交流超電導コイルの開発に成功した。  全超電導発電機などの交流超電導機器開発の第一段階として、交流超電導コイルの開発が行われている。しかし、交流超電導コイルには、偏流現象、電磁振動、交流損失などに起因する導体の安定性低下の問題があるため、開発にあたってはこれらの問題への有効な対策が必要とされている。  これまでに開発された交流超電導コイルのうち最大のものは、Super-GMの交流導体試験装置に利用されている最大定格266 A(peak)−1.0 T(peak)のコイル(なお、実験時は133 A(peak)−0.5 T(peak)で運転)である。これに対して、今回開発されたコイルは、実験用の小コイルではあるが、0.1μV/cm定義の臨界電流特性から求められるコイルの臨界条件が1360 A(peak)−1.47 T(peak)となっており、ターン数が少なく、コイル電流が大きい設計となっている。こうした設計の場合、コイル電流が大きいことから、超電導導体に作用する電磁力も大きくなり、導体の固定が重要となる。また、導体構造についても、偏流防止の工夫や多重撚線化による交流損失の増加を防ぐ工夫が必要となる。  開発された交流コイルの仕様を表1に示す。この交流コイルは2次撚線導体(絶縁素線84本)を使用しているが、多重撚線化による通電電流劣化現象について明らかにするため、1 kA級コイルの他に、素線コイルとサブケーブル(絶縁素線12本)コイルも製作して試験を行っている。これらの3コイルの直流および交流クエンチ点を、各コイルのロードラインおよび素線の臨界電流特性とともに示したのが図1である。(素線コイル以外はトレーニング後の最終到達点を示している。なお、1kA級コイルの直流クエンチ電流は励磁装置の都合により未測定。)素線コイルはトレーニング無く通電できたが、他の2コイルは当初トレーニングを示した。そこで、導体の固定を改善(バインド線による補強)したところ、各コイルともクエンチ点が0.1 mV/cm定義の臨界電流特性付近にまで達したとのことである。  電総研エネルギー部の山口研究官らによれば、開発した1 T(r.m.s.)-1 A(r.m.s.)級交流超電導コイルをはじめとする一連のコイルを用いた試験結果から、交流超電導機器開発だけでなく、直流やパルス応用の超電導機器に関する知見も得られたとのことである。また、開発したコイルは、交流損失の低減を必要とするものの、磁束密度と電流の大きさは小容量の電気機器に匹敵するレベルにほぼ達していることから、今後の交流超電導機器開発の可能性に一つの展望を与えるものであるとのことである。  なお、本交流コイルを開発したグループは、引き続き交流コイルの高性能化にむけた検討を行う予定とのことである。                              (安全第一)
表1.1T-1kA交流コイルの仕様

 巻線高さ      118.1 mm
 巻線内径      50.0 mm
 巻線外径      90.7 mm
 巻数        29×4層
 自己インダクタンス 0.352 mH
 導体の固定     エポキシ含浸
 導体構成      一次撚線7本+CuNi線
 一次撚線構成    素線12本+CuNi線


図1.交流クエンチ試験の結果