SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 1, Feb. 1999.

7.自動車応用を目指して磁気浮上低温タンクを開発
_ドイツ研究チーム_


 ドイツにおける新しいHTS応用開拓の事例を紹介したい。

この度、ART研(Aventis Research & Technologies前ヘキスト研究所)、Messer(工業ガス会社)、UB(ブラウンシュバイク大学)及びZFWゲッティンゲンからの研究者チームが高温超伝導(HTS)磁気浮上技術による液体水素の実証容器を開発したことが明らかになった。この容器は、自動車用に水素を保存するために設計されており、HTSと永久磁石とから成るシステムにより、内部タンクを磁気浮上させることによって、従来より大幅に改善された高断熱性を実現するものである。これにより従来タンクに比し50%の断熱特性改善になり、保存時間は倍増した。

 通常、低温タンクでは内部及び外部容器間を真空にし、多数の反射箔を容器の表面と並行に配置して、対流と輻射による外部容器からの熱侵入を防いでいる。この設計の弱点は、支持要素を介して低温内部容器が室温外部容器に接触し、それによって内部容器への熱流入を促進することにある。課題は、従来の自動車応用を目指す液体水素タンクに対しては厳しいものになるだろう、その場合空間及び重量制限が鍵であり、タンク設計は小形化を達成しなければならないからである。

 無接触懸架装置は、内部容器に設置され、冷却用液化ガスに常に接触しているYBCOと熔融鋳造法(MCP)によるBi2212から成り立っている。永久磁石は、外装体にとり付けられている。超伝導体とマグネット間の反発力によって、内部容器は最適設計された懸架位置を保持する。HTSバルク部品の動作温度は、液体水素の蒸発温度21Kに基づいており、異なるHTS材料の使用が可能である。当ドイツチームは、Bi2212とYBCOの両方を採用している。

 YBCO単体は、改良溶融配向結晶育成(MMTG)法とトップ種付け溶融結晶育成(TSMG)法とによって製造される。YBCO123とYBCO211の混合粉末またはY2O3とPtO2あるいはCeO2の混合粉末が、標準的冷静圧加圧(CIP)及び焼結処理により、種々の円筒または板(40 mm×40 mm×14 mm)に成形される。浮上力の理論的計算によれば、永久磁石に対向するHTS体列の充填率が大きく寄与することが示されたので、長方形状のバルク部品が選ばれた。焼結後、空気中で部品溶融を行った。NdBaCuOまたはSmBaCuOの種をバルク体のトップ表面に設置して、TSMG法によってドメインが全断面に跨る単一ドメイン試料を製造した。これらSmBaCuOの種は、通常の溶融法またはトップ種付け溶融育成法により、製造された。

 単一ドメインYBCOバルク体の将来における大型応用の為には、大型量産製造法の開発が必須である。そこで、高品質の単一ドメインTSMG YBCOバルク体の再生バッチ製造工程が確立された。これにより、一回の製造で16個の長方形試料を、同時に溶融・凝固させることが可能になった。もう一つの代替量産法は、MCP Bi2212の採用である。残念ながらこの材料の浮上特性については、本プロジェクト以前には何も知られていない。MCP Bi2212は、ART研によって棒状及び円筒状に能率良く製造することができる。製造工程は、磁気浮上装置の形状に適合するように修正しなければならなかった。これらの材料は、40 K以下の温度で有望な浮上力を示した。例えば、20 Kの実験において、YBCO及びMCP Bi2212の浮上力は、26及び23 Nであった。Bi2212は、60 K以上では高い浮上力を示さなかった。

 ART社は35 mm×35 mm×3 mmのYBCOプレートと105 mm×70 mm×4 mmのBi-2212プレートを製作した。低温タンクでは、磁界は高エネルギー永久磁石(NdFeB)によって発生される。浮上させるべき全重量は、40 kgと計算された。4個のベアリングが内部容器の各端部壁に対を成して取り付けられ、40 kgを負担する。バネの堅さと支持能力は、自動車応用の要求に合わせて設計される。

 タンク設計は、ステンレス鋼製の2個の容器より成る。内部容器は120 lの液体水素を保持できる。この量の水素は、50lのガソリンと同等のエネルギーを有する。内部容器の重量は33kgであり、浮上させるべき全重量は41 kgとなった。4個のレバーが内部容器に設けられ、浮上の際外部容器に対して捩れ、あるいは、ずれるのを防止するように設計されている。これらのレバーは、内部容器の各端部に、対の形で小さな翼のように設置される。同時に、永久磁石を持つ4個の翼は、HTS部品と対向するように外部容器の内側表面に設置される。各永久磁石モジュール全体の大きさは105 mm×65 mm×20 mmであった。

 この実験により低温タンクの無接触磁気懸架の原理が実証され、現在は自動車用プロトタイプを製作する第2フェーズを始めつつある。このプロトタイプは、より小型化、軽量化され、ここで述べた容器に較べ損失の低減が図られる。このプロジェクトは、ドイツBMBF社によって一部支援されている。

(相模)