SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 1, Feb. 1999.


6.超電導電力貯蔵フライホイール運転試験開始
_中部電力・三菱重工_


 高温超電導バルク体応用の1つとして、その開発が期待されていた電力貯蔵用超電導フライホイールであるが、中部電力電力技術研究所 長屋重夫氏、三菱重工業高砂研究所 南正晴主査、同高砂製作所 河島裕氏らのグループによる実験機が、設計仕様である充放電電力貯蔵量1 kWh、最大電力貯蔵量1.4 kWhの運転実験に成功した。

 この超電導フライホイールは、一昨年のISS'97において一般公開された実験機(本誌 Vol. 6, No. 6掲載)で、直径60 cm、重さ14 kgの炭素繊維製フライホイールロータが2枚、縦型の回転軸中央に配置され、その下部には超電導磁気浮上軸受け、上部には電力の入出力用の発電電動機が組み込まれている。(図、写真他)

 超電導フライホイールの最大の特徴は、軸受け部を超電導バルク体のピンニング磁気浮上を利用して非接触化し、摩擦による損失ゼロを目指したものである。当初、磁束クリープによる浮上力の低下や、浮上回転側となる永久磁石の磁場分布が完全には均一でないため、回転で発生する変動磁場により生ずる交流損失といった問題があったが、今回の実験機では、あまり問題となることが無かったようだ。

 発表された構造からすると、永久磁石は分割型を採用している。磁場の均一度を上げるために磁性板が取り付けてあり、また超電導バルク体の支持は非磁性のFRP製である。加えてこのFRP軸受け台には上下に昇降する機構があり、超電導軸受けを浮上させる際に、いったん浮上設定位置よりも狭いギャップを与え、深い位置での磁束のピニングを行うことで、目標とする設定浮上位置でのクリープによる浮上間隔変化の対策としているらしい。

 超電導フライホイールというと、完全に非接触で回転するシステムを想像するが、この実験機では超電導による磁気浮上は垂直方向のみで、回転軸を支えるラジアル軸受けには、通常のボールベアリングが使用されている。

 理由としては、ボールベアリング等の接触型の軸受けでの損失は、その荷重に大きく依存するため、ロータ重量を支えるスラスト側を非接触化出来れば、それだけで大幅に軸受け損が低下することと、ラジアル方向は、回転体の不釣り合い(アンバランス)に起因した損失であるため、ロータのバランスを一定限界まで押さえ込み、回転数が下がる(ロータ周速は同じ)大型実用機では、実用上問題となる損失にはならず、また、構造やシステム効率の点で有利(維持に動力を必要としない為)になるとしている。

 ちなみに、今回の1 kWh実験機での軸受け損失は、1万回転の時に120 Wあり、内訳は、ラジアル用ボールベアリングの損失が104 W、風損が15 Wで、残り1 Wが超電導軸受けの損失と報告している。

 この内訳は、接触・非接触が混在した軸受けとなったため、実測が出来ず、計算値とのことであるが、上記の考えが正しければ、超電導フライホイール実用化へ向けて明るい材料と考えられる。

 同グループ長屋氏によれば、現在、検証に向けて試験を続けており、方法としては、今回の実験機のボールベアリングを使用したラジアル軸受けを、非接触の常電導磁気軸受けに置き換えた場合の比較と、超電導スラスト軸受け部分のみを取り出し、超電導磁気浮上のみで回転させる、損失測定試験を行う予定とのこと。

 1 kWh定格のフライホイールはNEDOプロジェクトでも、独自の開発が続けられてきた。この10年の高温超電導応用開発における1つの節目の成果として、その結果の報告が期待される。