SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 1, Feb. 1999.

3.相対速度1000キロに 5両編成も導入 _山梨実験線_


 超電導磁石を使用するリニア浮上式鉄道は、1997年の4月に開始した山梨の実験線の走行試験によりあたらしい段階に入りました。試験車両は当初の車輪走行による「歩行訓練」から始まりましたが、一ヶ月後には無事「巣立ち」して浮上走行を開始し、引き続き高速走行試験への本格的「実力確認」に入りました。試験は全体として非常に順調に進み、つぎつぎと従来の速度記録を更新し、同年の12月末には有人としての速度記録である531 km/hと、無人としての速度記録である550 km/hを達成しました。将来の営業最高速度500 km/hを目指す浮上式鉄道としての「素質」が実証されたわけです。

 1998年に入ってからは、2編成の車両を使用した総合的な走行試験が実施されました。その中では、列車同士のすれ違い走行試験が代表的な確認項目となりましたが、そのほかに、複数の電力変換器を使用してそれぞれの担当領域をスムーズに渡る運行方法の確認等、将来の営業線に向けて不可欠な各種条件におけるシステム確認も行なわれました。すれ違い走行に関しては昨年の暮れに相対速度966 km/hが確認されましたが、これは片方の車両が504 km/h、もう一方が462 km/hで走行するという試験であり、当然これも他に例を見ない世界初の組み合わせでの走行試験となっています。

 浮上式鉄道は、車上に超電導磁石を搭載して10 cmほど浮上して走行することに特徴があります。車上に搭載する超電導磁石は何と言ってもこの設備の最重要設備となっています。過去には宮崎の実験線で、走行中にクエンチするという苦いトラブルも経験しており、安定した特性が確保できるか否かは関係者の注目するところとなっていました。幸いにして、これまでの2年近い走行実績のなかで、超電導コイルのクエンチトラブルは皆無という実績を確保しており、大きな自信が得られたと見ております。浮上式鉄道関係者以外の超電導磁石に関わる読者からも、この結果は歓迎できる結果と言えるでしょう。

 一般に、記録というものは新記録が達成できたときには大きな反響を呼び、大々的にマスコミでも取り上げられますが、一度記録が達成されると次の更新までは何度その記録が達成されても騒がれることはありません。浮上式鉄道の開発においても同じことで、一昨年の最高速度達成の頃は、毎日のように記録が更新されましたので、その都度何らかの形で皆さんに情報が伝わったかと思います。実は、昨年も何度となく500 km/h以上の走行実績を確保しているのですが、新たなニュースとして報道されることはありませんでした。しかしなから、このように安定した走行特性を確認できていることが、走行試験としての目立たない大きな成果でもあります。

 この記事が掲載されるころには、試験車両は5両編成となります。5両の編成ということは、中間車両が先頭もしくは後尾車両と直接連結されていないということで、将来のより長い編成車両の運動特性を把握するために意義のあるデータを提供することになります。全長120 mほどの編成車両長となり、スマートな車両が高速で走行することで、今まで以上に「絵」になる走行風景が見られるようになります。ご期待ください。

(財)鉄道総合技術研究所浮上式鉄道開発本部 中島 洋