本マグネットの設計では、高い臨界温度を持つ高温超電導の特色を生かし、かつコイルの電流密度が低温超電導コイルとほぼ同等であるマグネットを製作するため、コイル運転温度を20 Kに設定し、超電導特性を支配するテープ面に垂直方向の磁場が極力小さくなるようなコイル形状を選定している。また、現状の線材は磁場中でのn値が低温超電導に比べ小さく、負荷率を大きくすると定常的な発熱(フロー損失)が無視できなくなるため、伝導冷却型コイルで許容できる負荷率で設計されている。
さらに、許容できる熱負荷を向上させるため高温超電導向けの高効率冷凍機の開発が進められ、作動ガスの圧縮比の最適化等を行うことで大幅な省エネ効果も期待される。コイル製造技術においては、歪みに対して敏感なテープ線材の超電導特性(Jc,n値)をコイル製作時に劣化させないため、1 kgf/mm2以下のローテンションで、かつ曲げ歪みも0.1 %以下に制御できる巻線技術と、巻線後の巨大パンケーキコイルの取り扱いやすさの向上、および伝導冷却コイルの生命線とも言えるコイル内の熱伝導の向上を狙った塗り込み含浸技術も開発されている。本マグネットの開発にあたっている東芝の小野通隆研究員は、昨年の冷凍部会における講演の中で銀シース線について「風が吹いても劣化する脆弱な超電導線」と称したが、今回のコイル製作に際しては、設計からコイル製造、評価に至るまで、多くの努力が歪み対策に当てられ、その結果として巻き線から含浸までが自動化された巻線技術の開発(写真)がどうしても必要であったことを強調していた。また、今回のプロジェクトを成功させることで産業応用分野における高温超電導コイルをさらに身近なものにし、高温超電導の特徴を生かした様々なマグネットシステムを開発して行きたいと語っている。
来年度は、このパンケーキコイルを18枚スタックしたコイルを2個製作しミラー型の磁場を提供できる単結晶引上げ装置用の高温超電導コイルシステムを開発し、マグネットシステムの性能評価(東芝)、引上げ装置としての性能評価(信越半導体)を行なう予定である。また、マグネットの評価では低温超電導システムでは実現できなかった常伝導磁石感覚の高速励磁試験もその開発項目に含まれていると言う。
(低温常伝導vs高温超電導)
写真2 開発された巻線機概観