本実験では、超高真空中の低温ステージにマウントされたニオブがティップとして用いられ、放出電子のスペクトルが1 meV以下のエネルギー分解能で測定された(図参照)。ニオブの超伝導転移温度(9.2K)以下で、フェルミエネルギー(E=0 meV)近傍に単色電子放出を示す鋭いピークが発達している事がわかる。また、このピークの強度の温度依存性は、内挿図に示すように、ギャップパラメータの温度変化と対応している。このような単色電子放出検出の試みはこれまでにもなされてきたが、いずれも成功していなかった。早稲田グループはティップを電解蒸発によって常に清浄に保つことがこの現象を観測する上で重要であることを指摘している。実際、残留ガスが吸着したティップではこのような現象は観測されなかったという。観測されたピーク幅は約20 meVと理論的予想よりかなり広いものの、試料の質の向上などで改善の余地があるという。
従来、超伝導応用といえば、ケーブルやSQUID等に集中していたが、近年超伝導ブリッジを利用したテラヘルツ光源(大阪大)や、ジョセフソンプラズマを利用したテラヘルツ光源(東北大)など、スペクトロスコピーの光源としての応用の可能性が指摘されている。本実験も将来の電子線スペクトロスコピーへの応用上興味深い。また、現象そのものの、より深い基礎的理解も今後の課題であろう。
(バウハウス)