SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 1, Feb. 1999.

12.HTSを用いた衛星通信用フィルターを開発
_ウパタール大学_


 米国のベンチャーであるSTI社、Conductus社、IST社等が移動体通信基地局用フィルターの開発・受注競争を繰り展げていることは、本誌上で度々紹介されている。(例えば本誌Vol.7,No.5にSTI社の記事を掲載)今回はドイツの開発動向について紹介する。

 ドイツのウパタール大学が、HTSを用いた衛星通信用大電力フィルターの開発に成功したことが明らかにされた。この開発は、国家工業化プロジェクトの一環として行われており、商用衛星通信システム向けにHTS素子の製造を最終目標とするものである。ウパタールグループは、近年一貫してTM010モードのディスク型共振器の性能向上を目指して研究を行ってきた。当素子は、マイクロ波HTS素子の許容電力容量を最大にするため、1994年に提案されたものである。本素子は、当時の高周波HTS素子の電流制限問題を解決した。即ち極めて均一の電流分布を持つフィルター構造を採用することにより、マイクロ波許容電力を向上させた。

 最近、当グループは、4極型周波数バンドフィルターを設計・製作し、試験を行った。本フィルターは、準だ円周波数特性を有し、衛星通信用の3.4〜4.2 GHz出力マルティプレックサーに対して、40 MHzのバンド巾を許容するものである。ランタン・アルミニウム酸化物及びサファイヤ基板上に置かれたYBCOディスクとリング共振器には、TM010モード技術が採用されている。本フィルターは、小型・軽量にも拘わらず、十分小さい挿入損失とそのような応用に必要な変換能力を有し、60 Wの送信電力を処理することが出来る。

 "高温超伝導衛星通信"と呼ばれるこの国家プロジェクトが開始されたのは1996年である。ドイツの大学グループとその産業界パートナーであるBosch Telecomは、共同して商用的に有望な新しいHTS技術を開発中である。ウパタール大の研究者A.Baumfalk氏は、"HTS部品は、従来の素子に比し、重量とサイズを劇的に低減化する潜在能力を持っており、冷凍機の追加を含めても、実質的に小型化を達成できる"と語った。Baumfalk氏は、"衛星システム中の1kgを軽量化すると、ロケット発進のコストを50,000ドル節約できる"と評価している。重量の軽減は、HTS衛星技術を開発する主要な動因を成している。本共同開発の次の目標は、'99年中にヨーロッパ宇宙機構(ESA)と一緒に、試験システムを発進させ、本技術を宇宙で検証することである、という。

(こゆるぎ)