SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 1, Feb. 1999.

11. 超伝導アンテナの新しい応用
       セキュリティ対応アンテナシステム
_山形大学_


 近年日本でもセキュリティシステムの重要性が認識され、レーザーや遠赤外線、監視カメラ等を用いたシステムが実用化されている。最近、欧米では10.525 GHzのマイクロ波を用いたシステムが検討され、すでに実用化されている。マイクロ波を用いたセキュリティシステムでは、比較的広範囲で遠方までの領域をカバーできる監視システムが実現でき、遠赤外線のシステムと併用することにより更に確実な監視システムとなることが知られている。日本では、電波法によりマイクロ波を用いたセキュリティシステムを直ぐに実用化することは難しいが、その利点は十分認識されており、また、欧米の技術に遅れを取らないように研究を開始している企業もある。

 マイクロ波を用いたセキュリティシステムは、監視角度90度、監視距離10 m程度の監視が可能であるが、更に遠方、高範囲の監視システムの実現が望まれている。そのためには、高利得アンテナや低ノイズミキサーが必要となる。超伝導アンテナや超伝導ミキサーは、低ノイズ、高利得であり、十分それに対処できるデバイスである。山形大学工学部大嶋重利教授の研究室では、以前より超伝導アンテナの研究を進めており、その応用をいろいろと模索していたが、超伝導アンテナを用いたセキュリティシステムの開発に着手した。マイクロ波のセキュリティシステムの概略を図1に示す。送信アンテナから放射されたマイクロ波が侵入者により反射され受信アンテナに戻って来る。その時、反射波はドップラー効果によりわずかに周波数変化をする。基本波と反射波をミキシングし、その信号を増幅することにより、侵入者を監視することができる。侵入者が0.1m/secで侵入した場合、ドップラー効果による周波数変化は7.02 Hzとなり、検知することが十分可能である。検出の感度を上げる為には、高効率のアンテナと低雑音のミキサーが必要である。アンテナを超伝導化することにより4dBの利得向上が確認されており、より高感度のシステムを実現することができる。この原理は皆さんすでにご存じの、車のスピード違反取締に用いられている「ネズミトリ」に応用されている。

 超伝導アンテナや超伝導ミキサーを低温に維持するためには、小型冷凍機は不可欠である。最近、冷凍機の進歩により小型・高性能な冷凍機が実現されている。山形大学では、住友重機械工業の協力の下に、セキュリティ用の小型冷凍機の検討も始めている。図2に、スターリング型冷凍機の写真を示す。コールドヘッドと圧縮器が如何に小さくなったかがおわかりと思う。このサイズならば、十分移動可能であり、一般家庭や店舗、ビル等の監視システムに用いることが可能となろう。未だプロトタイプなので、真空封じきりや窓材等の考慮がなされていないが、今後その方面の検討も早急に進めていきたいと担当の学生は述べている。図1の様なシステムは、セキュリティ以外にも船舶の衝突防止等のシステムにも応用が考えられる。「動く超伝導デバイス」の実現に向けた山形大学の研究成果に期待したい。

(雪むかえ)


図1


図2