SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 1, Feb. 1999.

1. 超電導レーザーへ可能性
        ジョセフソン・プラズマ素子発振か?
_東工大_


 高温超伝導体では層状構造のために結晶そのものの中にジョセフソン接合がビルトインされているといわれ、多重接合の間で協奏的に生じるクーパー対のプラズマ振動が注目されていた。プラズマ振動の存在は、東大工内田慎一教授らによって 初めて報告され、立木昌金材研客員研究官が理論を展開し、その後、ボルテックス との結合などが報告されていたが、すべて吸収として観測されていたものであった 。今回、東工大物性物理学専攻の井口家成教授らは、BSCCO単結晶のc軸方向に準粒子注入を行うとプラズマ振動が誘起され、10−47GHzのマイクロ波が発生することを初めて観測した。試料は金属材料技術研究所で育成されたBSCCO2212単結晶をフォトリソグラフィーにより微細加工して50 mm角のメサ構造(高さ30−50 nm)を作り、これにAuの薄膜電極を取りつけたものである。BSCCOとAuの間にはトンネルバリアが形成されており、図1に示すようにバイアス電流を流しトンネル電子をイントリンシック接合の系に注入することでプラズマ振動が誘起される。マイクロ波の検出方法は、いわゆるスーパーヘテロダインミキサー方式を用いている。受信周波数は11.6 GHz、22 GHz、36 GHzおよび47 GHzである。図2は11.6 GHzの受信周波数で観測された電磁波放射特性および 接合の電流−電圧特性を示したものである。イントリンシック接合の電流−電圧特性はヒステリシスを伴う多分岐ブランチ構造を示すが、図は1サイクルの特性を示している。図から3つの異なった電磁波放射モードが存在することがわかる。一つは低電圧領域の発振ピーク、もう一つは準粒子電流部で現れるインコヒーレントな放射、 さらにギャップエッジ部で現れる鋭い発振ピークである。低電圧側のピークはジョセフソン自己発振ピークであり、10数個の接合がコヒーレントに動作しているものと説明される。準粒子電流部のブロードな構造は、準粒子注入に基づく電子-プラズモン相互作用によるインコヒーレントな発振と解釈される。図2の挿入図には辿るブランチの数に応じていくつもの放射のブランチが存在することを示している。

 ギャップエッジ(高電圧域)での発振ピークは通常のジョセフソン自己発振ピークと考えると全く説明がつかない。なぜなら試料のジョセフソン素子の数は数10個であるのに対し、ギャップエッジのピークではジョセフソン素子が2万個程度つながっていると考えなければ説明つかないからである。 井口教授はこのピークをジョセフソンプラズマ発振に基づくものと考えている。BSCCO2212のジョセフソンプラズマ周波数は 100 GHz程度であるが、これが10−47 GHzの受信周波数で観測される理由は、準粒子注入によりギャップが減少し、系の有効温度が上昇する結果、プラズマ周波数も減少するからである。ギャップエッジで顕著な負性抵抗領域が存在することはギャップが大幅に減少していることの証拠を与えている。実際プラズマ周波数は1桁近く小さくなっていると推察される。このプラズマ周波数が受信周波数に一致したところでピークが観測されるといった次第である。受信周波数を高くすると,より低い電流のところでピークが現れる事実はこの解釈を支持している。

 観測されたマイクロ波はまだピコワットオーダー程度と弱いが、井口教授らは「出力が小さいのは、インピーダンスミスマッチング、導波路損失、試料結晶から自由空間への電磁波放射条件が詰められていないことによると思われる。最初は弱くてもテクノロジーの改良により数桁の向上はよくあること。また材料を選択すれば1 THz近傍の発振も期待できる。Shafranjuk−立木理論によれば、ある特殊な条件下でコヒーレントな発振が期待できるので、いずれ、本当に高温超伝導ジョセフソンレーザーを実現したい」と話している。

(JJY)


図1


図2