SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 6, Dec. 1998.

9.フェムト秒光パルスにより制御された磁束の可視化に成功
― 大阪大学超伝導エレクトロニクス研究センター ―


 大阪大学超伝導エレクトロニクス研究センター斗内政吉助教授・萩行正憲教授らのグループは、フェムト秒光パルスを用いた磁束の生成・制御・可視化に取り組んでおり、今回その成果として、テラヘルツ電磁波放射マッピング手法を用いて、光制御された超伝導ループ中の磁束の可視化に成功したと公表した。

 同グループは、これまでに、フェムト秒光パルスによる高速電流変調を用いれば、超伝導領域の相転移を伴わずに超伝導リング中の磁束が、制御・変調できる可能性があることを指摘してきた。その第1段階として、前回、図1に示す構造(幅100 mmのストリップラインの中心に直径30 mmのホールを空けたもの)の超伝導リングを用いて、一方から電流バイアスを印加した状態で、図中レーザースポットに、フェムト秒レーザーを照射し、バイアス電流を除いた後に、レーザースポットから放射されるテラヘルツ電磁波から、中心のホールに磁束が生成されている可能性を報告してきた。

 今回、この状態での超伝導電流の分布を可視化することで、この裏付けをとることに成功した。図2 に示すように、磁束を生成した後のリング付近での電流分布から、ホールの周りに超伝導電流が流れている様子が明瞭に観測されている。このマッピングは、検出器としてボロメーターを用いたときであるが、低温成長GaAs光スイッチを用いることで、X方向に流れる電流の向きと大きさを観測することができる。その結果を、図3(a)に示す。ここで、中心のホールはX=125 mm、Y=150 mm付近にあるが、対向するブリッジで逆向きにほぼ同じ大きさの超伝導電流が流れていることがわかる。これらの結果から、中心のホールに磁束が生成され、電流が周回していることが証明された。更にこの状態から、逆方向に同じ大きさのバイアス電流を印加し、同じ処理を行うことで、図3(b)のように逆向きの電流が観測されており、磁束の向きが反転している様子が観測されている。

 現状では磁束量分解能は良くないが、今回の結果から、超伝導ループ中でのフェムト秒レーザーによる磁束生成・変調が可能であることが実証されたわけである。斗内助教授は、磁束生成メカニズムとして、「電流を印加した状態では、2つのブリッジから誘起される磁気エネルギーはホールに対して相殺され、通常磁束は存在できない。しかし、一方の電流が減少した時点で、この現象が高速であれば、カイネティックインダクタンスの変化によるエネルギー相殺が間に合わず、この時点でホール中の磁気エネルギーの存在が許される可能性がある。」と指摘している。

 現状では、まだ、ブリッジを横切った磁束の侵入の疑いも指摘されているが、最近同グループは、ブリッジ形状ではなく薄膜にホールをパターニングした系でも、弱磁場中での光励起により、ホール中に磁束が誘起されることを観測するなど興味あるデータを検出しつつあり、今後の進展に期待したい。なお、本研究は特定領域研究(A)「ボルテックス・エレクトロニクス」(代表:大阪大学小林猛教授)の成果としてJpn.J.Appl.Phys. 37(1998)L1301に報告されている。

(大魔王)


図1 実験模式図


図2 テラヘルツ電磁波放射による電流分布マッピング



図3 低温成長GaAs検出器を用いた電流マッピング
(a)、(b)はそれぞれ、バイアス電流を200 mA、-200 mAとしたとき